Ⅰ 旅立ち

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「どうなさるのです。このままお父上から逃げおおせられるものでもありますまい」 「わかっている。ここからは俺一人でいい。お前たちは戻ってくれ」 「しかし殿下」 「このまま俺に付いているほうが危険だろう。そなたたちにも立場があることだし」  穏やかに促す声に、従者として付き従ってきた三人は顔を見合わせる。 「ぞろぞろ付いて来られると、そのほうがよほど目立つ。一人なら落ち延びることも出来るさ」  そう言うと、ハーシェルは必要最低限の荷物だけを(くく)り付け、馬に(またが)った。 「では、達者でな」  呆然と、しかし追うこともためらわせる空気を残し、ハーシェルは振り向かずに立ち去る。  ハーシェル・ハリア=レア・ミネルウァ────彼はレア・ミネルウァの界王ナルセルの末子、第五子第四王子であり、王位継承はほぼありえない位置にいた。  しかし、今は違う。乱心ともいえる王の所行により、ハーシェルさえ担いで王位に()けようと企む輩も出て来たのだ。これでは兄たちが暗殺の危機にさらされてしまう。ただでさえ、王の手により殺されてしまうかもしれないというのに。そしてそれは、自分にも言えることだった。  だからこそ、ハーシェルはみずから城を出る決意をしたのだ。
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