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「どうなさるのです。このままお父上から逃げおおせられるものでもありますまい」
「わかっている。ここからは俺一人でいい。お前たちは戻ってくれ」
「しかし殿下」
「このまま俺に付いているほうが危険だろう。そなたたちにも立場があることだし」
穏やかに促す声に、従者として付き従ってきた三人は顔を見合わせる。
「ぞろぞろ付いて来られると、そのほうがよほど目立つ。一人なら落ち延びることも出来るさ」
そう言うと、ハーシェルは必要最低限の荷物だけを括り付け、馬に跨った。
「では、達者でな」
呆然と、しかし追うこともためらわせる空気を残し、ハーシェルは振り向かずに立ち去る。
ハーシェル・ハリア=レア・ミネルウァ────彼はレア・ミネルウァの界王ナルセルの末子、第五子第四王子であり、王位継承はほぼありえない位置にいた。
しかし、今は違う。乱心ともいえる王の所行により、ハーシェルさえ担いで王位に即けようと企む輩も出て来たのだ。これでは兄たちが暗殺の危機にさらされてしまう。ただでさえ、王の手により殺されてしまうかもしれないというのに。そしてそれは、自分にも言えることだった。
だからこそ、ハーシェルはみずから城を出る決意をしたのだ。
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