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どうせ城にいたところで、貴族をまとめるための道具として婿入りするか、臣下に降るだけだ。ならば、落ちて自分が気に入った土地で、気に入った娘と一緒になるのもそう大差はない。むしろ気兼ねがない分、気楽な選択肢と言えた。
路銀も、自分には不要な宝飾品をいくつか売り飛ばしたところ、結構な額になった。気を利かせて持たせてくれた姉に、感謝せねばなるまい。あとは仕事だ。何か仕事を見つけて、民に混じってしまったほうが見つかりにくいだろう。幸い、王位継承権の高い兄たちと違い、ハーシェルは似顔絵が出回ることも少なかった。容姿もそれほど派手な質ではないし、王家に近い者以外、自分を判別出来る者はそうそういないと見ていいだろう。
「ちょいと、待ってくれないか」
そんなことを考えているうちに馬の前に飛び出して来た人物を、ハーシェルは慌てて避けた。
「なああんた、見たところ旅人だろう? 仕事、頼まれてくれないか」
馬を制したハーシェルに、深い緑色のローブに全身を包んだ男は駆け寄るなり切り出した。
「仕事?」
「そうだ。もちろん、行き先が合えばで構わない」
今から仕事を探そうとしていた矢先だ。話としてはありがたい。しかし相手の素性も事情も知らず、そのまま飛びつくのもどうかと思い、一応話を聞いてみる。
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