Ⅰ 旅立ち

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「今じゃ王に怯えた連中で、まともに商いさせてくれる土地は少ない。フィルセインに落とされた土地はもっとダメだ。ロムニア男爵は、まだ中立を保ってると聞いている。あとは、レフレヴィー伯爵と、アリアロス公爵領、セルシアの直轄領も悪くはなかったな」 「しかしなんでそんな遠くまで? ここからならレフレヴィー伯爵領が一番近いじゃないか」 「伯爵領は、もう回ってきたんだ。これから寒くなるっていうのに、あの土地で商いするには厳しい」 「まあ、確かに」  レフレヴィ―伯爵領は、北の大地だ。あとひと月もすれば、早くも雪と氷に閉ざされる。 「その点、レジエントなら気候は穏やかだ。これから商いをするにはもってこいの場所なのさ」 「ふーん」  気のない返事をしておいて、ハーシェルはいいかもな、と男を見やった。少なくとも、今の話は嘘ではなさそうだ。 「あんた、腕っ節も強そうじゃん! 俺の目は結構当たるんだけど、どう? 金に関しては、もう交渉出来ないくらいの金額なんで、申し訳ないんだが……」  確かに、平時の護衛の日当は一万リッツから一万二千リッツ程度で、一日三万リッツは破格と言っていい。  ハーシェルは笑い、馬から降りて言った。
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