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「一日一万リッツでいい。その代わり、三食とおやつ、つけてくれ」
食べ盛りなんだ、と付け加えると、目の前の男はあっけにとられ、そして腹を抱えて大声で笑った。
*◇*◇*◇*
「また伏せっているのか。本当にお前は、難儀なことだな」
見回りから帰って来た父の声を、うつらうつらしていた瞳が辛うじてとらえる。
「お父様。お戻りでしたのね」
「ああ。そろそろ商人たちが集まって来る時期だ。お前の好きなジャムも献上されてきたぞ」
言えば少しだけ微笑みを見せ、上体を起こそうとする娘を支えてやる。
「嬉しいわ。私、ディクトンさんたちのジャム大好きだもの。いらっしゃるうちに、お礼に行きたいわ」
「今のままでは無理だ。安静にしていなさい」
緩やかに波打つ、見事な金色の髪を撫で、優しく笑いかける。
「目が覚めたら、ジャムを添えてお茶にしてもらうといい。ルイに預けておくよ」
「はい」
花がほころぶような笑みに、男爵は頷いて部屋をあとにした。
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