(六)

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 次の瞬間目に飛び込んできたのは、長い黒髪を乱し、階下に横たわる妹の姿だった。ピクリとも動く気配はなかった。  誰かの叫び声が響いた。女性の……あれは……そう、塚井(つかい)さん。応接室でいつもわたしたちと一緒にいる、この家のメイドの……。  妹を殺してしまったと決めつけた脳は、同時に自身の過去をも抹殺し、かわりに、都合のいい新たな世界を用意した。  それは―――これは不可抗力。自分だけがすべて悪いわけではない。元はといえばあの子が……。との、やはり都合のいい自己弁護、自己防衛が、頭内を支配したゆえからのことだと思う。  以来、わたしの居場所はこの部屋が中心となった。
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