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痛みが残る腹部を抑えながら、彼が後ろを向くと、そこには男が立っていた。
黒髪オールバックに、黒のスーツ、赤色のネクタイをビシッと決め込んで、適度に力の抜けた微笑みを作りながら立っている。
右手に拳を作っているところを見ると、この黒スーツの男が痛みの元凶らしい。
「あんたが殴ったのか?」
そう聞くと黒スーツの男は微笑みを崩さないまま踵を返した。
「ついてきてください」
「は?」
質問に答えずに、背中を向けて歩きだしてしまった。
「ちょ…待てよ!」
黒スーツの男に向かって叫ぶが、振り返らない。ザッザッと一定のペースを保った足音が聞こえるだけだ。
周りを見回しても、草原が広がっているだけで人の類いはいない。
状況が理解できないが、この黒スーツの男についていくしかないと感じた男は、苛立った様子で立ち上がり、黒スーツの男のあとを急いで付いていった。
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