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「死んでいるってことは、ここは死後の世界なのか?」
広い草原と綺麗な川が広がっているだけで、人らしい姿はない。
静かだ、と言えば聞こえは良いが、生命の気配を感じない静けさは、死後の世界というのを、光太により実感させるものだった。
「これから三途の川とやらを渡るのか?それとも閻魔大王様と対面か?」
光太がそういうと、黒スーツの男は鼻で笑った。
「そういうイメージありますよね。どちらも存在するのですが、あなたはすでに、どちらも終わってます」
「え?そうなの?全然記憶にないんだが」
「生死の境をさ迷うくらいのギリギリの状態ならゆっくり渡れるみたいですが、あなたは即死だったので三途の川を渡る…というよりは、ロケットのように飛び越えたって感じですかね」
飛んでいく自分の姿を想像した光太は苦笑いを浮かべた。
「閻魔大王に天国か地獄か判断してもらうのは?」
「それも以前は一人一人、大王様が判断してたんですが、天界も人手不足のため効率化を図りまして…書類審査で分けさせてもらってます」
「なんか、夢がないな」
「ええ、死んだことも夢だといいんですがね」
「待てよ?じゃあ、俺はもう天国か地獄か決まってるってこと?」
「ええ。もちろん、あなたは地獄行きです」
黒スーツの男は歩くスピードを変えず、淡々と言った。あまりにスピーディーな返答に、光太の脳は一瞬、活動を停止したようだった。
「ええ!なんでだよ!」
光太はこの時、初めて黒スーツの男の前に回り込んだ。
男は、微笑みの表情から急に真顔になって、光太の目をじっと見つめた。
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