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天使の男は、やれやれという表情で光太を見た。
「あなたは汚れたシャツは洗濯しますよね?」
天使の問いに光太は頷いた。
「魂を白いTシャツだと思ってください。現世で悪さを働くほどTシャツは汚れていきます。もちろん、善行をした魂ほど白いTシャツということになります」
「な、なるほど」
Tシャツの例えに戸惑いながらも理解しようと
耳を傾ける光太。
「天国に行く魂は、現世で比較的汚れてこなかった魂なんです。そういう魂は、天国でゆっくりと次の人間への転生を待つんです。対して現世で悪さを働いた魂は黒く汚れてしまってるので、地獄に捨てられ、汚れを落とすのです」
光太は右手の親指で右のこめかみを押さえながら話を聞いていた。考えをまとめるときに、光太はいつも、このポーズになる癖があるのだ。
「じゃあ、天使ってのはTシャツを振り分ける仕事ってことか?」
光太は生前、テレビで観たヒヨコのオスメスを仕分ける仕事を思い出した。根気のいる作業で、自分には出来そうもないと感じていた。
「いいえ、それはエンマ様の仕事です。私たちの仕事は…現世にあるTシャツたちを汚さないようにすることです」
男はその場で両手を広げ回転し、光太のいるほうに向き直った。新世界の神になる、とでも言いそうな邪意のない笑顔だった。
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