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『宮内さん、今朝のニュース、ご覧になりました?』
出社した直後に、総務部の倉本茉美から内線電話を受けた。
これが日本企業であれば『宮内部長』と肩書きつきで呼ばれるのだろうが、この外資系化学メーカーでは役員以外のすべての社員が『さん』づけだ。
電話をかけてきた茉美とは、2度、プライベートで食事に行ったことがある。食事だけだ。それ以上のことは、向こうが積極的であれば拒まないだろうな、くらいの気持ちはあったが、食事中の雰囲気から察するに、どうやら茉美も似たようなことを考えていたらしく、双方がそういう思惑では物事の進展が望めるはずもない。もう1年ほども前のことだ。
「出る前にテレビのニュースは一応チェックしたけど」
『じゃあ、ご存知ですか、大阪の暴走車の事故のこと』
「ああ、なんかあったな、そういうニュース。高齢者じゃなくて、若者だったとか」
『はい。夜どおしお酒と怪しげなクスリでハイになってた二十歳そこそこの男の子が、早朝、友だちの車を拝借して暴走した挙句、街中で歩道に突っ込んだという事故です。まだ早い時間帯だったので被害者は少なくてすみましたが、死者がひとり、出ました。ニュースでは名前は出ていませんけど、そのひとり、うちの社員です』
「え、うちの? 大阪か?」
『はい、大阪支社の……、脇坂さんです』
「脇坂? まさか、脇坂って、あの」
『そうです、東京にいた時、宮内さんの部下だった脇坂さんです』
「いや、部下というより、営業に移る前の研修みたいなもんだった。3年、いや、実質2年くらいか。製造管理部より、そのあとの営業にいた期間のほうが長かったんじゃないか。営業の時の上司は、ああ、そうか」
『ええ、もう退職なさってます』
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