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           *    *    *    *  「びえーっくしょい。ああーっ」 「うわ、つーちゃん、風邪。だから23度設定は異常なんやって」 「違う。これは風邪じゃない。誰かが噂してるんだ。たぶん守田あたりだ」 「科学的根拠、皆無。あ、わたし、今日はこのソファで寝るから」 「ええっ、なんでなんで。寂しいじゃん」 「わたしは23度には耐えられません」 「啓ちゃん、今日は泥酔してないからダメー」 「寝室異常低温緊急避難」 「ええーっ、じゃあ24度にする……、ひえっくしょい。ああー、絶対守田だ」 「なに言われたの」 「ん?」 「なんか言われたんでしょ、最近」 「あ? ああ。家でウザイとかめんどくさいとか言われませんか、って」 「なんで」 「ん? スープは冷製かあったかいのか、どっちがいいって、何回も訊いたから」 「仕事、してる?」 「でもあいつも、7月中は冷製がさっぱりしてるけど、8月になったら夏バテするから温かいほうが体にいいですよって、ちゃんと応えて……、ひえっく」 「あー、完璧、風邪。今日はシャワーだけじゃなくて、ちゃんと湯船に入ろうね」 「ええー、暑いよー。めんどくさいよー」 「それと、室温設定25度以上にすること」 「そんな無茶な。あ、すごい冷やして、俺の体温であっためてあげよう」 「いらん。風邪うつす気か」 「だから風邪じゃない……、びえっくしょーえ。あーもー」 「ほーら、3回以上は絶対、風邪。あーあ、鼻水まで出てきてるやん。はい、お風呂にちゃんと肩まで浸かって、100数えて、薬飲んで寝るっ」 「これは宮内だ。きっと宮内が俺を絶賛してるんだ」 「何を、誰と」 「それは、知らない」 「現実から目を背けない。はい、早く、お風呂」 「はあい。あ、メッセージだ。うわっ、ほらほら、やった、宮内だ。すごい。すごいだろ、啓ちゃん。やっぱ、科学では解明できないことがこの世にはあるんだって、なっ。ん? ああ。え?」 「どうしたの」 「ん、なんか後半、よくわからんけど、まいっか。お風呂お風呂」 「ちゃんと100数えてよ」 「50でいい」 「よくない」 「ひかり、って誰だ。あんま、いい名前じゃないな。どうせまた背の高い女だろ」    『おい、西澤、     紋切型の台詞など使う必要ないと     ひかりが言ってた。気にするな』    おしまい
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