翠の雨に願いしは

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 めいっぱい伸ばした手を、温かなものが包みこんだ。  胸が大きく上下し、自身の叫びで目覚めたことに気がついた。喘ぎながら瞳を開くと、電灯を背にして見下ろす桜太がいる。 「……お前、まだ、いたのか」 「いるよ。ちゃんと、いるから」  力なく下ろされた手を握る力が強まる。その手をふりほどくと、桜太の頭を抱えこむようにして抱き寄せた。二人分の体重を受けとめた簡素なベッドがギイッと軋む。予期していたとしか思えぬほど自然に落ちてきた体は、想像していたよりも厚く、心地良い重みで一葉に伸しかかった。 「雨の……せいだ」 「うん」  白々しい言い訳にも、桜太はすんなりと応じる。 「一葉」  彼の声が吐息とともに首筋を掠めたので、びくりと身がたわんだ。  おずおずと両腕を回すと、彼も同じ動きを返す。力強く背中を支えた手に、何らためらいはなかった。互いに着ているものが薄いので、すぐに体温が伝わる。早鐘を打つ鼓動も、上がったままの呼吸も、すべて桜太にばれてしまう。 「そばにいるよ。雨が止むまで、ずっと」  耳元で囁かれて、全身に甘美な痺れが駆け巡った。  鼻先が触れ合い、顔を傾けた桜太が薄い唇を寄せる。 「ダメだ。それじゃ、全然――ダメ」  抑揚のない低い声が、触れ合う寸前の唇を遮った。  身を離した桜太が、頭上から困惑の眼差しを落とす。 「雨はいつか必ず止む。お前は雨の日しか俺のそばにいない、ってのか? ふざけるな。それに――」  とんだ言いがかりである。ちがう、俺が言いたいのは……。
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