翠の雨に願いしは

　＊

　雨だ。
　雨が、降っている。
　……冷たい。全身が濡れて、体が重い。身動きが取れない、苦しい、嫌だ、雨は、嫌いだ、助けて――。
　とぷん――……落水の音が耳の奥を震わせる。
　捕らわれた。
　雨に、捕らわれた。
　もう、ダメ。助からないよ。ここは……。
　ぽかりと丸く、光の輪が見える。
　無数の影が揺れ動く群青の空……違う、ここは――雨の中、だ。
　視界を染める鮮やかな青色は、徐々に深味を増して、闇へと変化していく。白い光はもう遥か彼方に小さくなり、伸ばした腕は虚しく宙を掻く。
　落ちている。
　すべての感覚を失い、ゆっくりと沈む体は浮上している錯覚すら覚える。
　やがて、僕は、溺れ始める。
　不意に呼吸ができなくなって、鉛のように重くなった手足をばたつかせて、泡を吹き、目を白黒させて……。
　命が尽きた暁には、この体は地べたに叩きつけられるのだろうか？　それとも、光溢れる天へと飛翔できるだろうか？　……どっちも嫌だ。
　僕は、まだ、ここに――いたい。