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* * *
「……まじで、いいんですか」
入ってすぐにカウンターの店なんてラーメン屋以外で初めて。
カウンター内にずらっと板さんが並んでる。一人はにこにことこちらの注文を待っている。きびきびと握ってる職人さんもおり……
スライド式の戸が開くたびへいらっしゃい!
カウンターの後ろに札がいっぱいかかってるけど値段書いてない……。
いったい客単いくらなんだ。
超高そう。
「おれが食いたいからおまえを付き合わせてるだけだ。おれの手取りをいくらだと思ってる。だから気にすんな」
「はい……」殊勝に頷くものの。
なんか課長、外だと言葉遣い結構悪いな。また新たな一面を垣間見た気がする。
「なにから食う?」とお手拭きで手を拭き拭きしながら課長。
わたしもそれに習いつつ、
「……白身から頼むのがセオリーでしたっけ。トロからとかナシですよね」
「構わん」白い歯を見せて課長が笑う。笑うんだ課長。不覚にも胸にきゅんと来た。「自分が食いたいもんから食え。それとも、おまかせにするか? 好みをある程度伝えれば先方が勝手に決めてくれるが……」
「あ、そうしようかな……」課長の口調につられわたしのそれも砕けた感じになる。アリだろうかこれ。「トロとウニとマグロが好きなんですけど。あと……日本酒も……」
「ははは。最初からポン酒行くか。トロとマグロって被ってんぞ」
「……えっとそのポン酒は組み合わせの妙ってやつで……マグロが好きすぎるんです」
「りょーかいりょーかい。おーいシゲさん。いまの聞いてた? このお嬢さんに、赤身とトロ中心でなんか頼む。おれも適当に合わせてくれ、あと、お任せの、冷酒も」
「か、っしこまりましたアアアッ」威勢のいい声が返ってきて、びくっとわたしの肩が揺れる。
隣の課長をちらと見る。お手拭きを丁寧に折りたたんでいる。
慣れてんな。
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