【本編・ちょっと鈍感な彼女SIDE】朝、目が覚めたら知らない部屋のベッドのうえでした

3/7
8860人が本棚に入れています
本棚に追加
/753ページ
 * * * 「……まじで、いいんですか」  入ってすぐにカウンターの店なんてラーメン屋以外で初めて。  カウンター内にずらっと板さんが並んでる。一人はにこにことこちらの注文を待っている。きびきびと握ってる職人さんもおり……  スライド式の戸が開くたびへいらっしゃい!  カウンターの後ろに札がいっぱいかかってるけど値段書いてない……。  いったい客単いくらなんだ。  超高そう。 「おれが食いたいからおまえを付き合わせてるだけだ。おれの手取りをいくらだと思ってる。だから気にすんな」 「はい……」殊勝に頷くものの。  なんか課長、外だと言葉遣い結構悪いな。また新たな一面を垣間見た気がする。 「なにから食う?」とお手拭きで手を拭き拭きしながら課長。  わたしもそれに習いつつ、 「……白身から頼むのがセオリーでしたっけ。トロからとかナシですよね」 「構わん」白い歯を見せて課長が笑う。笑うんだ課長。不覚にも胸にきゅんと来た。「自分が食いたいもんから食え。それとも、おまかせにするか? 好みをある程度伝えれば先方が勝手に決めてくれるが……」 「あ、そうしようかな……」課長の口調につられわたしのそれも砕けた感じになる。アリだろうかこれ。「トロとウニとマグロが好きなんですけど。あと……日本酒も……」 「ははは。最初からポン酒行くか。トロとマグロって被ってんぞ」 「……えっとそのポン酒は組み合わせの妙ってやつで……マグロが好きすぎるんです」 「りょーかいりょーかい。おーいシゲさん。いまの聞いてた? このお嬢さんに、赤身とトロ中心でなんか頼む。おれも適当に合わせてくれ、あと、お任せの、冷酒も」 「か、っしこまりましたアアアッ」威勢のいい声が返ってきて、びくっとわたしの肩が揺れる。  隣の課長をちらと見る。お手拭きを丁寧に折りたたんでいる。  慣れてんな。
/753ページ

最初のコメントを投稿しよう!