【本編・ちょっと鈍感な彼女SIDE】朝、目が覚めたら知らない部屋のベッドのうえでした

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 やばいやばい。新歓の二の舞だけは勘弁だ。しかも課長と二人きりでって課長に超迷惑がかかる。  ふかーく、深呼吸を開始。 「……ん? どったの桐島ちゃん」 「酸素補給です」肺をたっぷり膨らませ、意識して長く吐く。ふー。「……相当、血中アルコール濃度があがってきました」 「お茶か水頼む?」 「欲しいです……」するとすぐに板さんがお冷やをくれた。  おいしいお水で、喉が、潤う……。  冷たいグラスを熱い頬に当てる。あー、気持ちいい……。  課長と目が合った。がなんだろ。  今度は課長からふいっと逸らされる。 「……桐島って埼玉の出身だっけ」と、課長が新しい話題を提供する。  お刺身をつまむ彼の手が妙に白く見える。  その手がゆらゆらかげろうのように揺れ…… 「……です」自分のレスポンス能力が低下しているのを自覚し、お水をもう一口含む。「……わたし、一人っ子でえ、一人娘でえ、親元でぬっくぬく育ったんです、だからぁ、……大学卒業して一人暮らし始めたんです」 「桐島結構キてんなおまえ。とにかく水飲め」 「はぁい。……で。どこまで話しましたっけわたし。えっへへ……。えーと親元離れてみると結構寂しいなぁって……それで、なんか仕事に打ち込むしかないっつうか、でも会社でそんな大したことしてないっつうか、なんなんだろこの崩壊アイデンティティってゆうか、ただいま絶賛モラトリアム期間中なんですぅ……」 「酔っぱらいになに言っても馬の耳に念仏だろうけど働いてんだからモラトリアム違うぞ。それと、自分の仕事を大したこと無いなんて言うな。きみは、よくやってくれている」 「えー? ……ちょ、褒めてもなんもでませんよぉ課長」 「べつにきみに見返りなんか求めちゃない。……きみの仕事は実に的確でスピーディで、繊細だ。段取りがいいうえに漏れがない。しかもいつもにこやかで絶対に断らないと来たもんだ。だからみんながきみに頼む。……自分が会社で重宝されていることを、知らないのか」 「あっはは! 変なの! かっちょおがわたし褒めてる!」 「……まったくやれやれだぜ。他部署からきみを引き抜きたいと持ちかけられても、断固としておれが断っている。まあここだけの話だがな。その理由は――  ちょっとここじゃ、言えないな……」
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