名脇役

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「いいかいぼうや」 蝉の鳴き声が響く7月。 麦わら帽子を深くかぶり、縁側に腰掛ける老婆は言った。 「そうめんを食べる時はね、薬味をどっさり入れるんだよ、ちょっとじゃあだめなんだ、気が狂ったように入れるのさ」 「え〜、僕はちょっとでいいよ、薬味はあくまでも補助でしょ」 「補助だからさ、たっぷりの薬味は主役のそうめんを引き立たせるのさ、まぁぼうやはまだ小さいからねぇ、脇役の大切さはわからないかもしれないねぇ」 「僕は大きくなったら主役になるんだ!脇役が霞むくらいの大物にね!」 「楽しみにしているよ...ヒェッヒェッヒェ...」 そんな人を小馬鹿にしたような笑い声を、大人になった僕は思い出していた。 舞台俳優を目指して稽古に明け暮れる日々、文字通り僕はになることを夢にみていた。 しかし、主役になった僕を老婆がみることはなかった。
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