林檎色。

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林檎色。

 本当に、情けない中学生だった。勉強もスポーツも今一つで、特に秀でた才能もない。何も持っていないくせに、努力もしない。休み時間には、常に一人で机に突っ伏しているような奴だった。  朝目覚めて鏡の前に立つ度に、焼いた餅のように膨らんだ頬、左右で大きさが違う瞳、面皰(ニキビ)だらけの汚い肌が映る。私は私の顔が嫌いだった。  偶に誰かと話をする時、喉から出る低くてガサガサした音が、壊れかけのスピーカーのノイズみたいで、私は私の声が嫌いだった。  休み時間何やら楽しそうにお喋りしているクラスメイト達を、見ていないふりでずっと見詰めていた。賑やかな笑い声と、眩しい笑顔がただただ恨めしかった。そうして、彼等の不幸を願っていた。私は、他人の不幸を願うことしか出来ない自分自身が、大嫌いだった。  性犯罪者が嫌い。体育教師が嫌い。口うるさい両親も嫌い。そんな嫌いなものだらけの私には、真に愛するものなんて一つも存在しなかった。趣味といえば音楽鑑賞くらいで、確か中一の頃は、主に宇多田ヒカルの曲を聴いていた。世界中に歌手は数多存在しているけれど、彼女はその中でも飛び抜けて素晴らしい才能の持ち主だと、私は勝手に思っている。人は自分より優れた者に出くわした時、羨ましがったり妬んだりしてしまうものだろう。しかし私の中に、彼女への嫉妬の感情は生まれなかった。それはきっと、私が一生を捧げたとしても彼女には敵わないのだと、無意識のうちに敗北を認めてしまったからだと思う。凡人の私では足元にも及ばないような、孤高の天才。私はそんな彼女のことが、好きだった。
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