《ルリタテハ王国の特殊な職業》 序章

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《ルリタテハ王国の特殊な職業》 序章

 ルリタテハ王国歴477年。  人類は恒星間航行”ワープ”により、銀河系の太陽系外の恒星に居住の地を拡げていた。  現在より1000年以上前、人類は地域の自治を残しつつも統一国家”アース”を創った。それは有史以来、人類による最高の成果と言って良い。  その当時、恒星間航行するために必須の技術であるワープ航法は、3光年もの距離を一瞬で跳躍できるまでになっていた。  そのワープ航法を可能としている重要な要素であるオリハルコンは、不安定な重力元素”Gravity Element”を精錬したのち、様々な種類の金属を添加してから製錬し、作られている。オリハルコンとは、金属に重力元素を含んでいる合金鋼のことであり、金属の種類によって用途が異なる。  オリハルコンに必須の重力元素は、太陽系では主にアステロイドベルトの小惑星で採掘できる。しかし恒星間航行の成功から50年ほどで、ほぼ採掘し尽くしていた。水星、金星では探索が進まず。火星では入植者、基地、企業など様々な思惑がからまり、鉱床の発見が困難を極めた。  かたや、オリハルコンは物質として安定していたため、市民の生活にオリハルコンは、無くてはならない物質となっていた。  たとえば、交通機関では内燃機関の車が電気自動車へ、電気自動車がオリハルコンモービルへと取って代わられた。この傾向は陸海空、どの乗り物でも然ほど大差なかった。さらに高級なホテルなどではオリハルコンでエレベーターを実現していた。エレベーター内の乗客には、重力の変化を全く感じさせないようにオリハルコンで重力を制御し、あたかもドアが閉じて開いたら、別の階にいたかのように技術が可能となった。  人類の生活に必要不可欠となったオリハルコンの原料である重力元素が、太陽系内で採掘できなくなっていた。その現状を打破するため、アースと企業は、必然的に他の恒星に重力元素を求めるようになり、他星系への進出が加速した。  そう、残念なことに、進出の速度を速めたのは、進取の気風でもなく未知への憧れでもなかった。  それは・・・、経済的理由だった。  ルリタテハ王国は1企業グループが、建国のおよそ180年前にルリタテハ恒星系に進出して基礎を築いた。その企業グループを率いていたのが地球の日本自治区出身の一族”一条家”で、社員は大昔に日本人と呼ばれていた民族が多数働いていた。  太陽系外への進出の速度は、時間軸に対して2次曲線を描くかのように増大していった。その進出速度はアースの警察力、軍事力増強の遥か上を越えた。  そして、ルリタテハ王国建国の約500年前。地球の警察力、軍事力が、他の恒星系に及ばなくなっていた。特に地球から離れた星系には・・・。  そこはフロンティアという無法地帯で、宇宙海賊というならず者たちが主役の時代だった。  統一国家アースはまったく役に立たたず、各星系では私設軍隊で防衛にあたった。宇宙の平和の為に、なにも寄与しない・・・寄与できないアースから、各星系が独立を宣言するのは当然の帰結だった。  そんな中、ルリタテハ王家の初代国王である一条彗(いちじょうすい)は、ルリタテハ星系でルリタテハ王国の設立とアースからの独立を宣言した。  しかし統一国家アースは、断固として独立国家の存在を認めなかった。独立を阻止すべく各恒星系に軍隊を派遣したのだった。  アースの敵は独立を宣言した国家だけではなかった。距離による疲弊のあと、軍隊と互角の装備を備えた宇宙海賊が補給部隊を襲撃したのだ。賊なだけあって、単に補給物質を狙った行動であった。  誰も予期していなかった賊の行動により、50を超す独立国家は連合軍を組織するだけの時間ができた。  アースはあっさりと連合軍に敗退したのだった。  そのためアースは、独立国家を軍隊による制圧から、外交による融和へと政策を変更せざるを得なかった。  その後、300年以上におよぶ混乱を経て、3つの陣営へと集約された。  アースを含む”民主主義国連合”  ドラゴン星系を宗主星系として独裁星系国家を築いた”ミルキーウェイギャラクシー帝国”  そして”ルリタテハ王国”  ルリタテハ王国には2つの陣営とは異なる特徴が幾つかあり、それがルリタテハ王国のルリタテハたる所以となっていた。  まず、王国議員を王国市民が選挙に拠って選び法律を制定するが、憲法改正にはルリタテハ王家の同意が必要である。要するに立憲君主制である。  そして、王家、王族は存在するが貴族は存在しない。また、王族にも幾つかの例外を除いて等しく法律が適用されているのだった。  次に義務教育である。  義務教育期間中は、衣食住すべてを国費で負担する完全無料化制度をとっている。さらにその後の教育も、国と企業が手厚く無償奨学金を準備していて、少なくとも教育費で家庭に負担がかかることはない。  だが、信教の自由を認めていない。  宗教はルリタテハ王家の始祖を神として崇めるのみである。  ただし強制はされていないので、王国市民の99パーセント以上は無宗教である。しかも、王家ですら無宗教・・・ルリタテハ王家の始祖を神として崇めていないのであった。  しかし、これには残念な逸話が存在する。  当初、一条彗は宗教を全面禁止にしていた。  しかし、経済格差が争いを生むのと同じように、相容れない強固な思想同士、つまり宗教同士がぶつかり合うと争いとなる。経済格差への対処はいくらでも可能であるが、宗教戦争は他人の心の発露のぶつかり合いなので、コントロール不可能と一条彗は判断したからだ。  ゆえにルリタテハ王国では宗教を禁止とし、宗教を捨てられない人は他国へと放逐された。新規にルリタテハ王国に参加する惑星国家にも厳しく適用していき、ルリタテハ王国には一時期、宗教が完全に存在しなかった。  しかし、経済政策が巧みに実施されていようが、一定程度の割合で心の拠所としての宗教を欲する人が出てくる。それは、若くして両親を亡くした子であったり、パートナーを失った人であったりと・・・。  一条彗は医療機関のカウンセリングを充実させた。そして、王国市民に宣言したのだった。 「神とは一条隼人である。彼によりルリタテハ王国に富と安寧を齎せてくれたのだ。神は人から神となり、我らルリタテハ王国に永遠を、王国市民に幸福を約束してくれたのだ。神は我らをより良い未来に導いてくれるだろう」  今の一条家の基礎と精神を築き上げ、始祖と伝えられる隼人を神として祀り上げた。この時点では最良の判断であり、彗は満足のまま生涯を終えた。  だがルリタテハ王国歴460年、彗の想像してもいないことが起きてしまった。  現人神の顕現。  始祖”一条隼人(いちじょうはやと)”は、太陽系小惑星セレスへの最初の有人飛行のメンバーにして実業家であった。彼は人生のすべてを、いつの日にか他の恒星系へと辿り着くために費やした。  隼人は人生の後半に自分の夢を叶えるための行動を起こした。その時代の平均寿命である90歳に達した時、コールドスリープにより銀河系の中心へと旅立ったのだった。それは、ワープが実現された未来に、自分のコールドスリープを解除する者が現れると信じて・・・。  ルリタテハ王国にとっては不幸なことだが、隼人の願いは叶ってしまったのだった。  幸いなことに、捜索は王国としてではなく、一条家として数十年に亘り実施していた。  偉大なる一条家の偉業として、神として尊敬されていた。  ゆえに捜索が長期間におよび終わりが見えない現状であっても、捜索隊のモチベーションは低下しなかった。この使命感が一条隼人を発見に繋がった。  コールドスリープ状態の一条隼人を回収し、ルリタテハ王家の居城で蘇えらせた。  この時点でルリタテハ王国は宗教を禁止していて、神を崇めたいなら王家の始祖たる一条隼人を崇めろと、数世紀に亘って指導していた。  そこに始祖の復活である。  王と側近、一条家は、隼人の扱いに困ったが、王国市民には生還を伝えてなかった。  伝えていたら、現人神降臨となり、宗教勢力の増長、世間の動揺、王族内の序列問題と多岐に大きな影響が及ぼしただろう。  隼人が発見されると彗が知っていたら、こう嘆いたであろう。 「2度と現れないと考えたから、神にしてやったのに、迷惑極まりない始祖だ」  ともあれ、現人神の出現は内々に処理され、ルリタテハ王国の政治、制度、経済に大きく影響を及ぼすことはなかった。小さくて深刻な影響を及ぼされてしまったのだが・・・。  他の2陣営と比較すると、まだまだ独自の特徴があるルリタテハ王国だが、その一つにトレジャーハンターというユニークな資格と職業が存在する。
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