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先程まで晴れ渡っていた空が一転して大粒の涙を流し出している。
授業が終わった時は綺麗な青空だったのに、文化祭の実行委員の話し合いをしているうちに気付けば空が暗くなっていた。
いつもなら雨が降ると憂鬱な気持ちになってしまう。
でも今日は違う!
なんと実行委員の中で傘を忘れていたのは私と佐藤くんの2人だけ。
つまり必然的に私と佐藤くんだけがこの大雨の中家に帰ることができないという訳。
「雨酷いな」
佐藤くんが憂鬱な目を空へと向ける。
「ほんとだね……」
私は憂鬱に賛同するふりをしながら心の中でガッツポーズをして小躍りする。
クラスの人気者の佐藤くんと2人でいられる機会なんて滅多にない。
ついに昨年同じクラスになって以来1年半秘め続けていた思いを打ち明ける千載一遇のチャンスが来たのだ。
「止みそうにないし俺走って帰るよ」
佐藤くん突然の爆弾発言。
これはマズイ。
せっかくの告白の機会が失われてしまうではないか。
「に、にわか雨だから、きっともうすぐやむよ」
「そうかな」
そう言ってしばらく2人で佇む。
その間に覚悟を決めようとするもなかなか決心がつかない。
1人大きく深呼吸をする私を佐藤くんがチラリと不審者を見るような目つきで見たような気がしたが、今から一世一代の大勝負をする予定の私はその視線を華麗にスルーした。
2人でほとんど無言で待っているうちに時は10分ほど経過しようとしていた。
「ちょっと止んできてるっぽいし、俺やっぱ走って帰るよ」
たしかに雨はもう全部水分を放出し終えましたと言わんばかりに弱まってきている。
これはマズイ。
告白どころか何も進展せずにこのチャンスとサヨナラをしてしまう。
「まだ降ってるよ」
「でももう太陽出てきてるし」
雨が降っている雲の隙間から明らかに太陽がチラチラと様子を伺っている。
雨雲が「僕らの出番は終わったんでそろそろ帰ります。」とでも言い出しそうな勢いで帰り支度を始めている。
「もうちょっとだけ待とうよ。もうすぐ雨止むんだったらもうちょっとだけ待って綺麗なお日様の下帰ろうよ、ね?」
上目遣い風な何かを決めつつ強引に引き止める。
これは結果残したよ、と自分を心の中で褒め称える。
さあ、もう一歩前に行け!
私を褒め称えた心の中の自分が背中を押す。
言うよ!
覚悟を決めたそのとき。
「あ、佐藤じゃん」
やってきたのはクラスのイケてる女子の須野さん。
私のターンもしかして終わりなのでは?
嫌な予感が心に浮かび全力で首を振る。
「雨宿りでもしてんの?」
「文化祭の委員活動終わったら雨降っててさ」
「あたし傘2本持ってるから1本貸したげるよ」
「あ、でも木佐も傘持ってないから俺は……」
「木佐さんも傘忘れたの?」
須野さんに聞かれ私は黙って頷いた。
「そっか。木佐さんこれ使っていいよ」
カバンの中から可愛らしいキャラクターのイラストの入ったピンク色の折り畳み傘を手渡してくれた。
「あ、いや、でも……」
それだとどちらか濡れちゃうんじゃと伝えようとした私の心配をよそに「あたしの傘入りなよ」と言って強引に佐藤くんを傘の中に連れ込み相合傘を始める。
佐藤くんは「なんでだよ」といいつつも満更でもない笑顔で須野さんとともに私に手を振り帰っていった。
気の抜けたまま立ち尽くしているうちに気付けば雨は止んでいた。
不要になった可愛らしい折り畳み傘を手に持って歩く。
私の先ほどまで晴れ渡っていた心に一転して大粒の雨が降り出した。
しかもこの雨はしばらく止みそうにない。
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