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1,エスパルト国
エスパルト国。
四方を大国に囲まれた小さな国。
金・銀の資源に恵まれた土地で、加工技術や細工が盛んな国だ。その技術はどこの国にも真似が出来ず、それがこの弱小国を支えている。
他国からの侵略もあったが『賢王』と名高い王と、王の右腕の将軍。と、もう一人『麗しの副将軍』と呼ばれる副将軍の活躍のおかげで侵略を許さなかった。
しかし隣接する国の中で一番大きいレオパレル国が、再びこの国を狙っていると間者(スパイ)から報告があった。
レオパレル国の成り立ちは、荒くれ者達が集まって一番強い者が王になった。貴族など上品な者達はいないらしい。
さて、どうするか。
王は出来れば戦いは避けたいと考えた。密かにレオパレル国に親書を送った。
───────────
「嫌です!私はレオパレル国になど嫁ぎたくないです!!」
エスパルト国、玉座の間。
レオパレル国に親書を送って数日後、返事が送られて来た。
『同盟国となり友好の証として王の娘を差し出せ。王の妻にする』と。
「なんて事でしょう!よりによってレオパレル国の妻とは……!」とエスパルトの后が嘆いた。
エスパルト国の第二王女のレイーラ姫は取り乱している。
『王族の姫ならば国の為の政略結婚を覚悟せよ』と幼い頃から言い聞かされていたが、「よりによって乱暴者ぞろいと評判のレオパレル国なんて!」と臣下の前でしくしくと泣いている。
波をうつ金の髪、澄んだ青の瞳。華奢な体。隣国にもその母譲りの美貌は噂になっている。取り乱し泣いても可愛らしい。
王とて人の子。城からほとんど出たことがない可愛い娘を野蛮と噂の王の元へには嫁がせたくはない。
「しかし……」
「父上!レオパレル国には私が行きましょう」
端に控えていた、背が高く乗馬服を来た者が王に言った。パッと見て男か女かわからないほど中性的な美形だ。
「ライラ姉様!」
レイーラ姫はその人物の名を呼んだ。
カツ、カツ、と王の前にひざまつき真っ直ぐに王を見て、
「レイーラはまだ15才なったばかり。それに華奢で可憐です。あのレオパレル国に馴染めるか心配です。私なら鍛えてますし、もしもの時はレオパレル国の中からエスパルト国を守れます」
肩まである金の髪を一つにまとめ、深い紫の瞳。レイーラ姫とまた違った、整った美しい顔で王を見つめた。
フーッと息を吐き出し、王はレイーラ姫とライラ姫を見た。
「ライラ姫……。確かにお前なら適任かもしれないが、結婚は別だ。戦ではない。それでも行くのか?」
「はい。私が大国レオパレルへ行きましょう」
スッと立ち上がり姿勢を正した。
隣にいた妹レイーラ姫の手を取り、ライラは甲に口づけした。
「何も心配はいらないよ。レイーラ」
にっこりと微笑んだ。 レイーラ姫は、整った姉の中性的な顔のライラに見つめられ頬を染めた。
「ありがとう、ライラ姉様……」
────────
ライラ姫の部屋で護衛兼メイドのマギーがライラ姫の支度をしている。乗馬服からドレスに着替えて髪を結い軽くお化粧をした。
「ライラ姫様も、ドレスを着れば美しくおなりですのに」
マギーはライラ姫の仕上がりに満足しながら言った。
ライラ姫は鏡越しに、
「普段は動きやすい服がいいよ」とにっこり微笑んだ。
マギーは見慣れた美貌のライラ姫だったが、ドレスを着て美しく着飾った姿を見てため息をついた。
「普段からドレスを着ましょうよ?」
「嫌だね」
マギーの母がライラ姫の乳母だったので二人は姉妹の様に育った。ライラ付きメイドだが、気を許せる相手だ。
「私も付いて行きますからね!」
マギーが腰に手をあてながら言った。
「え!? 駄目だ。マギーはこの国で普通の幸せをつかみなさい」
振り返りマギーを凝視する。
「ライラ姫様!その様に見つめては、皆を虜にしてしまいます!」
少し赤い顔をしてライラ姫に注意する。
「そんなことはないだろう?マギー」
「いいえ! ライラ姫様はもっと自覚を持って下さいませ!」
エスパルト国に、第一子として生まれたライラ姫。
誕生日のお祝いに来た魔女に、
『この娘は美しく成長する。しかし姫として育てば不幸になるだろう。王子として育てよ』と助言をされた。
母のマリアは隣国の姫で美しいと評判で妃に望まれたが、何人かの王たちが取り合いになり戦争になりかけた事があった。母マリアは助言に従いライラを王子として育てた。
よく動き、よく食べ、よく寝た。
出来すぎるほど、剣の技や王になる為の勉強をよくした。成長し16才になり、そこには完璧な王子がいた。両親はさすがに焦り、王女として教育し直した。
「今さら無理じゃない?」とライラは笑って言った。
そして17才になった。もともと覚えが良いライラ。何とか姫としての所作は身につけた。
「付け焼き刃にしては上々です!」とマギーは胸をはった。
「猫を被るのは得意だからね」
ライラ姫はにっこり笑った。
さて……。
戦についての作戦は立てられても男女の事はよくわからない。
「うーん……」
マギーに聞いておくべきだな。
「マギー?」
パタパタと忙しく早足で仕事をするマギーに声をかける。
「すみません、ライラ様。これから御輿入れの準備があります」
そう言って部屋から出ていってしまった。
それから私自身も準備やらレオパレル国についての勉強をしたりと、忙しい日々を過ごした。
そしてレオパレル国へ嫁ぐ日が来てしまった。
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