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3, 怪我の手当て
「手当てをしてくれるのか?すまない」
男は温泉の端に座った。右腕の肩の下あたりから肘まで二、三本の引っかき傷から血が出ている。尖った木の枝で怪我をしたようだ。
「ちょっと染みるぞ。我慢しろ」
ライラはカバンから清潔な布をを取り出して、温泉のお湯を布に浸した。血のついた所を綺麗に拭き取った。
「うっ……」男から声が漏れた。
「これはこの山で採った傷をふさぐ薬草だ」
ライラはここに来るまで途中で薬草をいくつか採っていた。
「知っている。俺達も使う薬草だ」
「それなら話が早い」
ライラは傷口に薬草を塗り込んでいく。
「イテッ!もう少し丁寧にやれよ!」
体を動かし抵抗する。
「手早くやらないと。薬草が乾くと駄目になるのを知っているだろう?比較的軽傷だ。我慢しろ!」
男は大人しくなった。
戦場で使っているときと同じように腹の底から低く、声色を変えているから女とは気づかないと思うが……。
てきぱきと薬草を塗り込んで、別の布で腕を縛った。
「はい、出来た。帰ったら傷口を見て膿んでないか見て、大丈夫だったら新しい薬草をまた塗っておけ。わかるな?」
「あ、ああ」男はうなずいた。
「比較的軽傷だが、軽く見るな。熱が出たら注意だ」
男はうなずいた。
「帰り道はわかるな?」
「ああ」
良かった。迷っていたら道を教えなければいけないところだった。
「では私は帰る。大事にな」
チラと怪我の場所を見た。
「ありがとう。恩はいつか必ず返す」
「いらぬ」
そう言ってライラは温泉から出て帰って行った。
砦に帰ったライラはすぐにマギーに見つかり、びしょ濡れのライラ姫を見て卒倒しかけた。
「ライラ姫様!!」
「ゴメン」
直行で湯殿へ連れて行かれた。
先ほどの男。
隻眼だったな。まあ、戦場に出れば無事に帰れる事は幸運だ。
私も傷だらけだ……。気にしない王だといいが。
「さあ、ライラ姫様。明日は王にお会い致しますよ。念入りに綺麗にしましょうね」
マギーは、湯船にドボドボと薔薇の花びらを入れた。
「マギー、色々有り難いが……」
「なんです?」
「明日は山を登る。せっかく用意してくれて悪いが、花の香りがしたら虫が寄ってくるからやめた方がいい」
「あ!申し訳ありません!!」
マギーは急いで湯船に入れた薔薇の花を取り出した。
「あの……、マギー」
「本当にすみませんでした」
マギーはペコリと頭を下げた。
「いや、いつもマギーは良くしてくれてる。実は……、その」
マギーはピクリとし、嫌な予感がした。
「また何か、やりましたか?」
顔が怖い。
「さっきレオパレル国の男と会っちゃった」
「ライラ姫様ーーーーーー!」
浴場に響き渡ったな。
「まさか恋人に会いに?まさかあり得ない!!」
マギーはうろうろ、その場で回り始めた。
「暗かったから顔はよく見られてないはず」とライラ姫は楽観的に言った。
「そう言う問題じゃ、ありません!」
「静かに。マギー」
こほん。と咳払いして
「下手すれば会ったという男は殺されますよ」
「え!?」
お湯がパシャンと跳ねた。
「男女、ただ偶然その場にいても色々な事を言われるものです」
「しかもライラ様は、王の婚約者という身分の高い女性」
マギーはライラ姫に真剣な表情で話した。
「こんな事は言いたくありませんが、ライラ姫様は国を背負っておいでなのです」
手をキュッと握った。そうだった。ウッカリしていた。
「行動に気を付けて下さいませ」
マギーは一気にライラに言って、ペコっと頭をゆっくり下げた。
「ごめんなさい……。これから気をつける。マギー、どうしたら良い?」
相手の男を気にしているようだ。
「怪我をしていて……、手当てをした」
「えええ!?」
「怪我人をほおって置けなかった」
ライラは手で顔を覆った。
「すぐに立ち去ろうと思ったけど怪我をみたら……」
顔を覆い、じっとしている。
マギーは鼻をフンッ!と鳴らし、
「わかりましたわ、姫様!マギーにお任せ下さい!」と力強く胸を叩いた。
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