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45,裏切り
「おかしいと思った。いくらセントラル侯爵が手引きしたとしても敵国に大勢の騎士達、王までが潜める事は不可能だ」
私は敵国の王の前に立つ、男に剣を向けた。
風がサァッと髪をなびかせた。かまわず男から目を逸らさず話す。
「だがお前ならエスパルトの騎士団を動かし、隙をつくれた」
地下倉庫の前は地面が整備されていて土が固めてあり、片脚に力を入れると小さな砂が足を滑らせた。
「カズン副将軍」
そう呼ぶとカズン副将軍の顔が歪んだ。
長い間私と戦略や剣の使い方など共に学び、ガイル将軍や皆と一緒に戦ってきたカズン副将軍。まさかこの男に裏切られるとは思ってはいなかった。
「ライラ様……」
小さな声でマギーが私を呼んだ。彼女もショックだったのだろう。
「ライラ姫様」
カズン副将軍は私の名を呼んだ。
「レオパレル国王レギンは、エスパルト国を支配しトルト国を征服した後には戦場を広げ力を使って、人々を恐怖で従わせることになるでしょう」
耳を疑った。レギンが?
「そんな馬鹿な」
カズン副将軍は一歩、私の方へ歩み寄った。両腕を降ろして顔だけ私に向けている。三、四歩ほど離れた位置。
「馬鹿な……と否定するほど、もうお互いにわかり合えているのですか?」
心の臓がドキリとなった。
「優しい言葉をかけ、偽りの動きをして貴女を騙しているのです」
「カズン……」
カズンは右手を握り胸の前に置いた。
「長き間、俺はライラ姫様の側で見守っていた。だがよりによってレギン王の妃など!」
あまり声を荒げたことのないカズン副将軍は、この時だけ大声を上げライラに駆け寄って来た。
咄嗟にライラは一歩後ろに引いた。
「カズン、目を覚ませ!」
「目を覚ますのは貴女です!」
私がそう訴えると、カズンは叫んだ。
「カズン……。トルト国王を捕らえないといけない」
カズンの悲痛な叫びに心が少し動いた。だが違う。
「ライラ……姫様」
カズンは一瞬、悲しそうな顔をした。俯き、足元を見た。数秒間だけだが長く感じた。
そしてカズンは顔をあげた。
「貴女を捕らえます」
カズンは右手を上げた。
後ろで成り行きを見ていたトルト国騎士達がカズンの指示で動き出した。
「傷はつけるな。囲み、拘束しろ」
「ハッ!」
カズンはトルト国の逃れて王の元に残った騎士達の指揮をしているようだ。
バタバタとトルト国騎士達が私とマギーを囲み出した。
「カズン!行くな!」
私は、背を向けて王の元へ行くカズンに叫んた。
一瞬カズンは振り返った。だけど再び王の元へと歩き出した。
「カズン!」
「ライラ様!敵を倒しますよ!」
マギーに大声で言われ、剣を握り直した。
トルト国騎士達は皆、幼い頃から訓練をしていて手練だ。気を抜けない。
「手加減なんて出来ませんからね!!」
そう言ってマギーは騎士達を次々と倒して行く。
「それでいい!」
私も手加減せずに一撃で息の根を止める。
「王を追え!」
道が開けたのでライラは走り出した。
「んな、また無茶を言う!くっ!」
マギーは騎士の後ろに回り込みトドメを刺した。騎士はグラリと地面に倒れた。
「ライラ様!一人で追ってはダメです!」
マギーは慌ててライラの後を追った。
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