46,想い

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46,想い

   背中が焼けるように痛い……。  カズンと話をしなければ。邪魔をするトルト国の騎士達を一撃で倒して行く。 「カズン!」  王のまわりをトルト国の騎士4,5人で守り、移動していくのが見えた。カズンは一人の騎士に話しかけてから、走って追いついてきた私を見た。先に王を逃がすつもりだ。 「カズン!トルト国王を逃がすな!」  私は叫んだ。エスパルト国を影から混乱させ、エスパルト国ばかりじゃなくレオパレル国まで手を伸ばそうとしたトルト国の王。許さない。  「トルト国騎士の腰抜け達め……」 そうカズンは言い、剣を抜いた。私はそれを見て立ち止まり息を整えた。 「カズン……」 王と騎士達は森へ入って行ったのが見えた。 ズキズキと背中が痛む。目の前の男は敵となった。  泉のある森を抜ければ国境。 隣国の “あて” があるというのか?……そうだとしたら思ったより大きな争いになる。止めなければ。 「ライラ様!」 ハアハアと息を切らしてマギーが追いついてきた。 「マギー!」 マギーは私の横を走り抜けてカズンに向かっていった。 「マギー!?」  「今までの恩を忘れるなんて!」 ガッ!マギーは走り抜けた勢いのままカズンに斬りかかっていった。 剣と短剣がギリリ……、ギリッと嫌な音をたてた。 「……引っ込んでいろ、マギー」 「なんですって?!」 カズンは後ろに体を引いた。 「あっ?」 バランスを崩したところに膝蹴りがマギーのお腹に入った。 「ぐっ!!」 マギーは体をくの字にし、ドサリと地面に倒れた。  「マギー!大丈夫か!?」 直ぐ駆け寄り声をかける。 「うう……」 歯を食いしばりお腹を押さえている。 「……マギー」 「大、丈夫。カズンを……」 「はっ……!?」 ガギィン!  カズンがマギーをトドメを刺しにきたのが気配で分かり、咄嗟に剣で振り払う。  カズンの剣が振り払った衝撃のため手から離れた。 「ツッ……!」 それを見逃さない。私はカズンに飛びかかった。 「カズン!!」 「うわっ!」 ドサッ!……とカズンを下にして馬乗りになった。  ガッツ! 上からこぶしを握りカズンの頬を殴った。 「カズン!どうして!国を裏切った!」 甲冑の首元を掴み引き寄せた。カズンの背中が浮く。 「ぐっ……ライラ、姫様……」 「リカルド王子の魔法にやられたのか?」 どうしてもカズンが裏切ったことに頭が整理出来ない。わずかな可能性を望んでしまった。  「いや、違う」 唇が切れて血が流れている。カズンのその唇がわずかな可能性を否定してしまった。 「くっ!」 こぶしを再び握り、もう片頬を殴ろうと片腕を上げた。 「ライラ姫様……」 カズンは呟き、片手で私をぐいっと抱き寄せた。 「あっ……!」  私は倒れこみ、カズンは両腕で私を抱きしめた。 「ライラ様!!カズン!離しな、さい!」 ゴホッとマギーは咳をした。思ったより深くお腹に膝蹴りが入ったようだ。 「ライラ……姫様」 カズンは私を、きつく強く抱きしめた。 「カズン!?」 「カズン!!離れなさい!」 マギーは怒鳴り声を上げた。   「人の妃に触るな」  「わっ!」 カズンと密接していたお腹に腕が差し込まれて、ふわりと体が持ち上がった。 剣がカズンの首元に当てられている。  「レギン王……!!」 苦々しい顔でレギンを睨んでいるカズンは地面に仰向けのまま、首元に剣を突きつけられ身動きが取れない。 「トルト国王を探し、捕まえろ!」 「はっ!」 レギンの命令で騎士団の騎士達が森へ向かう。馬で追えば、じきに見つかるだろう。私はレギンを見た。  「……遅くなった。すまん」 汗をかき、少し砂で顔が汚れている。急いで来てくれたのだろう。私は手でレギンの頬に付いた砂を払った。 「いいえ。来てくれてありがとう……」 レギンの腰に腕を回し、胸に顔をコツンとつけた。 「こいつを拘束しろ」 レギンは近くの騎士に顎でカズンを指した。 「はっ!!」 騎士が3,4人、取り囲んでカズンを拘束した。  「また無理をしたな」 レギンは私の頭を撫でた。 「ん……」 レギンが来てくれたので安心して力が抜けてきた。  「遅くなりまして、すみません!!」 ゼノンが今頃になって兵を引き連れてきた。 「遅いー!ゼノン!!」 マギーが座ったままゼノンに向かって叫んだ。 「……昨日の宴で皆、飲み過ぎてて集合に遅れました!」 「はあ!?」 マギーが信じられないと怒鳴った。  「マギー、お腹は大丈夫か?」 心配になり声をかける。 「痛いですー!誰か連れて行って欲しいわ!」 「あ、私が」 ゼノンがヒョイッとマギーを抱き上げた。 「痛い!お腹を蹴られたのよ!優しく扱って!」 「は、はい。すみません!」 マギーはゼノンに抱えられて城へ戻って行った。 「お前達も戻れ。明日、こき使ってやるからな」 レギンがレオパレル兵士に向かっていった。 「ひい!」 レオパレル兵士達は何もしないまま城へ戻って行った。  しばらくして、トルト国王とトルト国騎士が拘束されたと連絡がきた。 「ライラ姫様」 ガイル将軍が険しい表情で近づいてきた。 「ガイル将軍……」 私はカズンを見つめ、レギンの腰にまわした手に力を込めた。カズンは私達、レギン王と私を見てため息をついた。カズンの両脇には同じエスパルトの騎士がカズンを掴んで縄で縛り上げていた。 「カズン、やった事は取り消せない」 ガイル将軍はカズンに一言だけ言い放った。 「連れて行け」 「は!」 カズンは騎士に連れられて行った。 国を裏切った過ちには厳しい罰が待っている。  カズンとガイル将軍が去った後、私はレギン王にしがみつき声を出さずに涙を流した。レギンは黙って私の肩を抱いていてくれた。 風がレギン王のマントをなびかせていった。
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