47,その後

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47,その後

    「まったく!!ライラ様の無茶はいつもの事ですけど!マギーさんまで!なんですか!?肋骨、二、三本ヒビが入ってますからね!二人とも絶対安静!」  お城の軍医のマチルダさんにめちゃくちゃ怒られた。 「すみません……」 マギーはポソリと軍医さんに謝った。服の下には打ち身に効く草を潰した物が貼られて、上から包帯が巻かれて動きにくそうだ。 「……ライラ様のお傷は跡が残るかもしれません」 軍医のマチルダさんは申し訳なさそうに私に伝えた。 「仕方が無い。私が無茶をしたせいだ」 「ライラ様……」  そう。私が無茶をしたせいだ。だが決してリカルド王子にされた事は忘れていない。私は三日ほど起きずに寝ていたそうだ。……あれからどうなったのか。  トントン。 私の部屋の扉が叩かれる。 マギーに代わり、もう一人のメイドのジルが対応する。 「ライラ姫様、レギン王がお越しですがどうされますか?」 私は軍医のマチルダさんを見る。 「短時間なら良いですよ」 にっこりと笑いマチルダさんは部屋を出ようとする。 「マギーさん、ジルさん。ライラ様の薬の事でお話があるので」 そう言って二人を連れて行った。  マチルダさんとメイドの二人は扉前で止まり、壁際に立ちレギン王に頭を下げた。すれ違うときマチルダさんは、レギン王に小さな声で何か話しかけたようだ。 「ああ。分かっている」 レギンがマチルダさんに答えた。  三人は部屋から出て行き、レギン王と二人きりになった。 「痛むか?」 ベッドの直ぐ側の椅子に座り、レギンが話しかけてきた。 「薬が効いているので、そんなに痛まない」 「そうか」 少しの間、レギンは沈黙した。  「……近隣諸国との会議の結果、トルト国王は絞首刑。リカルド王子は一生涯【罪人の塔】で幽閉となった。カズンは斬首刑。もう実行された」 レギンは感情の無い、義務的な報告を私にした。私をじっと見つめ黙っていた。 「……そうか」 私は顔を逸らして俯いた。 「終わったのね……」 「ああ」  頭に太い腕がまわされて、顔がレギンの胸に押し付けられた。 「……。慰めてくれているのか?」 「ああ」 「……そうか」 城の中の奥深い王族の部屋のせいか、レギンはシャツにズボンとブーツのラフな格好だった。厚い胸板におでこをつけた。  「釘を刺されたからな」 レギンは突然、言った。 「釘?」 何の事だろう。 「軍医のマチルダに、『お体に触るのはしばらく禁止です』と言われた」  プッと私は吹き出した。 エスパルト国中では恐ろしいと評判のレオパレル国王レギンに、そう言えるのは軍医のマチルダさんしかいないかも。 「笑うな」 クスクス肩を揺らして笑う。 「あ、痛っ!」 ズキズキと背中が痛んだ。  「無理するな。軍医の話だと、一ヶ月は安静にしないと駄目だ。絶対安静だ。分かったな?」 私を胸板から離して、両肩に軽く触れて真っ直ぐに見て言った。 その迫力に、私は「はい」と答えるしかなかった。 ふっ……とレギン王が怖い顔を緩めて笑った。 「傷が治ったら、結婚式だ」 嬉しそうなレギンの笑顔を、私はみとれてしまっていた。 「ライラ?」 はっ……と我に返って上掛けの布をぎゅっと握った。  そう言えば……。 不意にカズンの言葉を思い出した。 『レギン王は貴女を騙しているのです』 その他の悪評や野心を聞いた。  『馬鹿な……と否定するほど、もうお互いにわかり合えているのですか?』 カズンの言葉が胸に刺さる。  「どうした?」 レギン王が優しく話しかけてくる。 「レギン……」 「ん?」 どうしようか……。遠回しに探ってみようか?  「レギンは近隣諸国を支配したいか?」 ……しまった。直球で聞いてしまった。固まって私をみている。 「それに色々な所で評判が悪いがなぜだ?」 駄目だ。遠回しになんて言えない。私を騙しているならば許さない。  レギンは私の頬を手のひらで触れた。 「お前が望むなら共に滅びても構わないが…」 「の、望まないから!」 ニヤリと笑う。 「せっかく俺達の世代になって安定した世界になったのを壊すつもりはない」 そうだった。私達の親の世代は争いの時代だった。多くの者の血が流れた。  「悪評は……、悪党に容赦ないからだろう。この間は、子供を誘拐し売った組織を壊滅させて根絶やしにした」 なるほど……。悪党も恐れる、王。  「そうか…」 目をつぶり、口端をあげる。 「結婚したら、その悪評が無くなるように努力しよう」 そうレギンに言い、手のひらに頬をすり寄せる。 「二人で良い国をつくり……」 言い終わる前に唇を塞がれた。  パッと目を開くとレギンの瞳が間近に見えた。唇が甘噛みされている。瞳に宿る熱っぽい視線を感じ、腰の辺りがザワザワする。 「ん、……はぁ」 声が漏れる。キスでこんなに感じるものなのか、とぽーっと考えていた。 「チッ。ここまでか」 ふっ……とレギンが私から離れた。 「え?」 その時……。 トントン、トントン。扉が叩かれた。  「王?レギン王、お時間です!」 側近のマレットがレギンを呼びに来たようだ。 「早く直せ。待ちきれん」 「なっ!」 立ち上がりニヤッと笑う。 「顔が真っ赤だ。戦略を練る顔も好きだが、その顔はそそる」 「レギン!」 「ははは……!また来る」 そう言い残して部屋を出て行った。  「レギン……」 彼が去った後は少し寂しかった。今まで無かった感情だった。ライラはそれに気付き動揺した。  「早く治さないと……」 ライラは呟いた。
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