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49,仮面の騎士は隻眼の男に剣を捧げる①
「レギン」
「1週間ぶりだな」
1週間ぶりにエスパルト国にやってきたレオパレル国王レギン。
レオパレル国の王族だけが持つ真っ赤な髪をなびかせ早足でライラに近寄った。
「では私達は失礼致します」
慣れたものでマチルダ先生とマギーは気を利かせて部屋を出て行った。
「ライラ」
レギンが私の頬を指先で触れたと思ったら、唇にキスをしてきた。
「! 」
そっと離れ……、両腕で私を抱きしめた。
「もう大丈夫と聞いた。強く抱きしめても平気か?」
耳の直ぐ側に唇を寄せて囁いてきた。
「だ、抱きしめる前に聞いて欲しい!もう平気だけど!」
久しぶりのレギンとの抱擁だったので焦り、突き放したような言い方になってしまった……。
「あ……、その、きつい言い方でごめんなさい。もう大丈夫…… 」
レギンの頬と私の頬がくっついているので、目線を動かしてレギンを見る。
「……照れたのか?」
「いやっ、違う!照れてない」
「照れたな」
くっ、くっと肩を揺らし笑った。
「うっ…… 」
「まあ、傷が良くなるまでしばらく抱きしめて無かったからな。早くこうしたかったぞ?」
顔と顔の距離が近い。
思わず視線を逸らして、右左と彷徨った。熱を持ったレギンの視線に心臓の動きが早くなった気がする。
「顔が赤いぞ?」
その問いに答える為、視線をレギンに向け口を開きかけた。
「レギ、んっ!?」
頭の後ろを掴まれて強く強く唇を塞がれた。
少し硬い唇が食むように、舌同士が絡み合う様に、激しく私の唇を奪う。
「あっ……。ンン!レギ……ン」
椅子に座る私の背中をもう片手で支えている。
目を少し開けると見えるのは赤い髪と閉じている瞼。片方の目は眼帯で隠されている。つい、そっとこめかみに指で触れしまった。
「……片目の男は嫌いか?」
レギンは目を開け、唇を離してライラに聞いた。
「……嫌いでは、ない。あの時……、傷を負った時は痛かっただろう、と」
「そうだな……。だがお前の看病のおかげで命は助かった」
茶色の瞳は私を見つめてそう言った。
「続きは後だな」
レギンは立ち上がり、私の額にキスをした。
「結婚式はレオパレル国の信仰する『風の神殿』にて行う。楽しみにしている」
レギンはライラに微笑み、部屋を後にした。
「結婚式」
そう言われて現実味が増した。
『ライラ姫様は、ライラ姫様らしく』
マチルダ先生の言葉を思い出し、ライラは微笑んだ。
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「ライラ様ぁー!ライラ様ー!どちらにいられますかぁー!」
私の傷が治り一ヶ月前に結婚式準備の為、エスパルト国よりレオパレル国へマギーや数人の護衛メイドがともに迎え入れられた。
レオパレル国の結婚式(結婚の儀)は、思ってたよりも他の国より独特で三回ほど “神に認められる儀式” があって厳かに行われた。
「ライラ様!どこですかー!?式が始まりますのでお支度を!!」
姉のような護衛兼メイドのマギーが、姿の見えない結婚式の主役の花嫁を探していた。
「まさか今頃になって嫌になったのかしら?」
レオパレル国の頑丈な要塞の様なお城。道は迷路のように入り組んでおり、道を覚えないと迷い込む。マギーはお城の構図を頭に叩き込んでいて、ライラが立ち入りそうな場所を探していた。
「マギー、私はここだ」
式が行われる神殿の裏側の、花嫁と花婿の控室につながる花が咲き乱れる綺麗な庭でライラ様の声が聞こえた。
「ライラ様!?こちらにいらっしゃいましたか!探しましたよ!!嫌になっていなくなったのかと思いましたよ!」
「そんな馬鹿な」
背の高さまであるバラのアーチの影からライラは姿を見せた。
「ライラ様!?」
マギーはライラの姿を見て驚いて固まっている。
「お待たせ。さあレギンの所まで行こうか」
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レギンは控室を出て、神殿の広い庭にいた。今日の結婚式には神殿の庭が国民に開放されていて、式の終わった後には皆に食事やお祝いのお酒や飲み物が振る舞われる。レギンは皆にお祝いの言葉を受けていた。
「レギン様~おめでとうございます!!」「おめでとう御座います!」「お幸せにー!」
レギンが国民に手を振り答えると歓声が上がった。
「ライラはまだか?」
「「はい」」
側に控えているマレットとラウンが答えた。
「レギン様、式の開始まで30分以上時間があります。招待したエスパルト国王族の方々他の招待客様がお越しくださって、ただ今神殿の中へ御移動し始めた所で御座います」
マレットが式の様子を説明をした。
「女性の支度は時間がかかるものだから、あまり急かさないようにしないと嫌われるぞ?」
ラウンは気安くレギンに話した。
「ラウン、レギン様に気安く話しかけるな」とマレットはたしなめた。
「へいへい」
幼い頃からいつも側にいたので、ついラウンは三人の時に昔の口調になってしまう。
「ラウン!」マレットが注意する。
「三人の時には、かまわぬ」
レギンが国民の声に手を振り前を向いたまま、答えた。
「「レギン様…… 」」
「レギン王に【赤い石の挑戦】を申し込み致したい!!!」
後ろの方から一人、甲冑を着た者がレギン王に赤い石を高く頭上に上げて歩いてきた。
「無礼な!!」
言葉より先に二人は剣を抜いて、剣先を甲冑の怪しい者に向けていた。
【赤い石の挑戦】その言葉を聞いて国民達がざわめいた。
【赤い石の挑戦】とは、王に認められた者が赤い石を賜られ、一度きりの挑戦をし勝利したものは願いを叶えるというものだ。
「久しぶりの【赤い石の挑戦】者だぞ!」「相手はエスパルト国の騎士らしいぞ」
「まあ!結婚式の日に!」「挑戦者は小柄だぞ?勝てるのか??」
国民達はレギン王の判断を待っている。
「レギン様。いかがなさいますか?」
マレットが鎧の騎士から目を離さずにレギンに伺った。
「お前はあの朝に、打ち合いしたエスパルト国の騎士だな?要件は?」
マレットとマウンの前に出て、鎧の騎士に近づいた。
「王!式の前です。後日にしていただきたい」
すっと、腕をマレットの前に出して制した。
「いや、まだ時間がある。何が望みだ?」
レギン王はエスパルト騎士から赤い石を受け取った。
「レギン王が赤い石を受け取ったぞ!!」
ざわざわ……と騒がしい。
「望みは、勝利ならば王の座を!負けたら忠誠を誓う」
エスパルトの騎士は堂々と宣言した。
ラウンは「ほぉ!」と言い、国民達はオオー!と叫んだ。
「レギン王様にたいした大口を叩く奴だな!」「怖いもの知らずめ!!」
ワー!ワー!と騒ぎ出した。
「待て!」
レギン王が片手を上げた。ピタリと騒がしい声が止まった。
「……いいだろう。相手をしてやろう」
レギン王はエスパルトの騎士の挑戦を受けた。
「レギン様!?」マレットが叫んだ。
白い上下の衣装の上着を脱いでマレットに預けた。首元を緩めて袖を捲った。
「丁度良い。あそこでやる」
指を指したのは儀式の為の舞台。
土と小さな石で作られた舞台は、地面より約一メートル高い。舞いを披露する舞台。
「広さも十分あり剣を振り回しても問題は無い」
レギン王は舞台に向かって歩き出した。
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