50,仮面の騎士は隻眼の男に剣を捧げる②END

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50,仮面の騎士は隻眼の男に剣を捧げる②END

     俺はレオパレル国王、レギン。 待ち望んだライラとの結婚式の前に【赤い石】の挑戦者が現れるとは面白い。 久しぶりの挑戦者が、前に早朝に会ったエスパルト国の騎士とは。 「ついてこい」 頷き、俺の後を歩いてくる。 マレットとラウンが警戒しながらエスパルト騎士の後ろについてきている。マレットは苦々しく顔をしかめていて、ラウンはニヤリと笑っている。  舞台に上がると凄まじい歓声が聞こえた。 「エスパルト騎士をやっちまえ!」「レギン様頑張ってー!!」「いいぞー!」  まったく……。 厳かに、清らかに結婚式を挙げようと計画したはずがこの野蛮な盛り上がり! ライラが嫌がらないといいが……。仕方がない。 「用意はいいか?」 エスパルトの騎士は剣を掲げた。“いつでもかかってこい” の意味の動作だ。 「手加減はしない」 そうエスパルトの騎士に向かって言うと、相手も剣を構えた。  周りがシーンと静まり返った。 湧き上がる闘争心に、血が逆流するような高揚感。 近隣諸国が『レオパレル国は野蛮』と噂する。あながち間違っていないだろう。争い、戦い勝利した者が王として統治してきた。代々受け継ぐ赤い髪はその証。今回も勝つ。勝たねばならない。  「ハアッ!」 相手が一瞬体を沈めて斬り込んできた。 ガッ……。剣で受け止めた。 「チッ!」 相手の舌打ちが聞こえた。更に力を込め押してきたが剣で受け流した。 「お前……。う!? 」  危なかった!間髪を入れず確実に急所を狙ってきている。首元を薄く切られた。今は加減し致命傷にならないようにしているが、戦場で戦い油断したらあっという間に死ぬ無駄の無い剣術だ。力の無さをカバーしているのか?  地面を蹴って、相手の上から力を入れて思い切り剣を振り落とす。 「フンッ!」 「くっ!」 ブンッと剣が空を切る。 受け止めるのが無理と、判断したようで間一髪で避けた。良い判断だ。だが。  剣を持ち直して、斜めから相手の剣を叩く。 ガキッ……ン! 「く!」 ビリビリッと鉄同士の強い衝撃が手に響いた。エスパルトの騎士は強い衝撃にも剣を落とさなかった。 「やるな」 一言、伝えると相手は俺を仮面の隙間から()()。いや、目が見えた。鋭く睨んでいた。見覚えがある瞳。  その瞳に意識を少し奪われていた。 「ボーッとするな!」 「うわっ!」 鋭い声とともに剣で胸を突いてきた!だがぎりぎりそれをかわした。 「……フン?」 かわしたのか?という皮肉の心の声が聞こえてくるようだ。  互いに構え直して向かい合った。  「王!そろそろお時間です!」 マレットが無粋な声かけをしてきた。馬鹿な。決着をつけてからだ。 「いくぞ」 集中し力を込め相手に向かっていく。手加減はしない。誰であろうと! 剣を握り横から斬り込んだ! 「うっ!?」  キィィーン! 相手の剣が手から離れて、空をクルクルと回り落ちていき地面に刺さった。 「あっ……! 」 「勝負はついたな」 エスパルトの騎士は、ガクリと頭を下げた。  気が付けば解放した庭には、さっきよりたくさんの国民達と他の国の王族達や貴族がこの【赤い石の挑戦】の戦いを見ていた。 国民達からは戦いの決着がついて大きな歓声が湧き上がった。 手を挙げて答えた。 「レギン様万歳!」「さすがレギン様!!」  カチャ……。 音に振り返ると、エスパルトの騎士が兜を外している所だった。 兜からサラリと金の髪が流れ落ちた。 「!? 」 兜を脱いだ顔には仮面がつけられていたが、間違いなく俺の知っている人物だった。 「赤い石の挑戦者は、女性だったのか!」「強い……。女性なの?」 ざわざわとまた騒がしくなった。  肩までの金の髪が風になびいている。 剣を拾い顔を上げて、俺に視線を向けて近づいてきた。 「()()()」 レギン王の言葉に、更にざわざわと人々がざわめく。 「ライラって、ライラ姫様!?花嫁の!?」  仮面を外してライラは俺の真正面に立つ。 「レギン」 名を呼んだかと思ったら、ライラはひざまついた。 「生涯、私は貴方とともに戦い、剣を捧げよう」  ひざまつき、剣を横にし両手で捧げた。 騎士が忠誠(または生涯を誓う)の言葉を述べた。 「ライラ」 剣を受け取り、剣に軽くキスをした。 「ともに」 レギン王が答え、剣をライラに返した。  わぁぁぁぁぁーーー!! この神殿の庭一帯が歓声で響き渡った。 「ライラ様!」「ライラ様、素敵!」「ともにレギン様とお幸せに!」「レギン王、おめでとう!!」  皆の歓声とお祝いの言葉が溢れた。 「レギン様、ライラ様!お支度して下さい!」 マレットが焦って話しかけてきた。 「すぐ行く」 その前に。 「レギン!」 ライラの体を引き寄せて強引にキスをした。 キャー!と女性の歓喜の声とピーピーと口笛を鳴らす男達。 「いいぞー!」 盛り上がる国民達。 ライラに胸を叩かれたので仕方なく離れた。 「顔が赤いぞ?」 「レギン!人前で!」 照れた顔が可愛いのでワザと人前でキスした。  ___________    「ライラお姉さま、素敵ですわ!」 ライラの控室に母と妹のレイーナがいた。 白い色の衣装をまとい、頭にはエスパルト国のティアラがキラキラと輝いていた。 「よく似合っているわ、ライラ」 母がにっこりと微笑み私を見た。 「でもね?先ほどの騎士の誓いは男性がするものではなくて?」 チクリと刺してきた。 「私らしく、愛の告白を致しました。母上」 私はまだレギンにキチンと告白していなかった。これでいい。 「男前ですわ!お姉さま」 両手を組み胸の前で合わせて、レイーナはウットリしている。 「さあライラ様!お時間ですよ」 マギーは花束を私に渡してきた。 「妻になる方が神殿に捧げると聞きました。お持ちになって下さい」  控室の扉をマギーが開けた。 私が外に一歩踏み出すと、大きな拍手と歓声が聞こえた。 「ライラ様!お綺麗だわ!」「我々の強い王と女王、万歳!」  花片が舞う。 風に乗りヒラヒラ、ヒラヒラと。青空に色とりどりに綺麗だ。 神殿の前での誓いはお互いに名を書く。エスパルトの名からレオパレルの名に変わる。  父と母、妹は微笑んでいた。 ガイル将軍の姿も見えた。泣いている??  儀式は滞りなく終わり、庭で食事や飲み物やお酒が振る舞われた。盛り上がり人々が楽しそうに歌い、踊っている。子供達は着飾り美味しそうにご馳走を頬張っていた。 「お義理母(かあさま)の姿が見えない」 私はレギンに聞いてみた。 「ああ。……実は母は昔、お前の父親と婚約していた」小声で話してきた。 「えっ……? 」 「事情は後で話すが、お前の母に遠慮して式には出ないそうだ」 知らなかった。お義理母と父が……。 「そう、なの」 それ以上言えなかった。  夕方になり解放されている庭は、宴もたけなわ 賑わっていた。 「ライラ様、そろそろ御父上様と御母様、レイーナ様がお帰りになります」 マギーに呼ばれた。 「見送りに」 レギンも立ち上がり父母のいる場所へ移動した。 「ライラ、幸せになってね」 母がにっこりと笑い抱きしめてくれた。 「両国の友好も重要だが夫婦仲良く」 父は寂しそうに言った。 「時々遊びにくるね!」とレイーナ。 「いや、レイーナ。時々は無理だから」 くぎを刺しておく。 「では」  両親が馬車に乗り込む前、レギンは父に話しかけた。 「両国の友好とライラを幸せを約束します」 がっちり父と握手をした。 馬車は動き出して、だんだん小さくなり見えなくなってしまった。 「ライラ」 頭をポンポンと撫でられた。 「ライラ様、お着がえいたしましょう」 マギーが少し遠慮しながら声をかけてきた。 「ええ。レギン、ではまた後で」 レギンと離れた。  今日からレギン王の部屋で寝起きするようになる。湯浴みをし、廊下をあるいていた。 「ライラ様」 声が聞こえた。 「マリオンヌ義理母様(おかあさま)!」 今日初めての顔を見た。 「おめでとう御座います、ライラさん。式に出席しなくてごめんなさい」 そう、話しかけてきた。 「いえ。有難う御座います。お義理母様」 頭を軽く下げた。 「リアンが居たときは失礼な事をしてごめんなさい。謝ります」 「お義理母様…… 」 マリオンヌ様は、ふう、と息を吐いた。 「監視されていたの。……リカルド王子に。なので貴女にきつく当たってしまった」 「そうだったのですね…… 」 「敵が多くてレギンにも厳しくしてしまった」 「でもこれからはもう大丈夫です。お義理母様」 私はキッパリと言った。 「そうね…… 」 マリオンヌ様はご苦労されたのだろう。でもこれからは……。 「ああ、そうだわ。これを渡しに来たのよ」 思い出して袋からガラス製の小瓶を幾つか渡してきた。 「お義理母様、これは?」 「回復薬に、潤滑油に、体力向上薬。潤滑油は一番大きな瓶に入っているわ!」 「はい?」 カチャカチャと袋に入れ直して私に手渡した。  にっこりと笑い「レオパレルの男に愛される女は大変よ。しっかり薬を飲んで頑張ってね?」とマリオンヌ様は言った。 「え」 「私の時は三日、部屋から出て来れなかったから貴女はどの位かしらね?」 「あの?お義理母様?」 「ちゃんと食事出来るように、メイドに頼んでおくわね!」 駄目だ。話が分からない。 「じゃ!頑張ってね?」 マリオンヌ様は行ってしまった。 「マギー……?」 「えっ?いえっ、私は言わなかっただけで!はっ!」 「どういう事?」 あわあわと、説明に困っているマギー。 「何をしている?」 「レギン」 部屋の前で話していたので聞こえたのだろうか? 「早く入れ」 腰を持たれて引き寄せられた。 「レギン……」 「マギー、明日の昼までは邪魔するな」 「ヒッ!は、はい!」 殺気を感じマギーは鳥肌が立った。 「ごゆっくりなさって下さいませ」  パタンとドアが閉められた。 「何だ?その袋は?」 「お義理母様に頂いて……、あ!」 袋を取り上げてガチャガチャと中から出した。 「気の利く、母だ」 レギンは母に嫌味を言ったが、私には聞こえなかった。 「だが、ありがたく使わせて貰おう」 「レギン?」  「あっ……、んんん!」 「夜は長い。これからも末永く……」 「ああ!」  これから長い夜が始まる。 仮面の騎士は、王と寄り添い両国を良い国にしていくだろう。 時に剣を取りともに戦い、時に優しく抱きしめて。                                                 ~END~                          有難う御座いました。  あと一話、後日談で完結です。    
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