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【後日談】仮面の騎士は隻眼の男に剣を捧げる~風と共に~【完結】
「レ・ギン……も、もう、」
「ん?ライラ……、聞こえない」
レギンはベッドの上に胡座をし、ライラは後ろから抱え込まれて頬にキスをされた。乱れたシーツ、床には脱ぎ捨てられた服や下着が散らばっていた。
皆に祝福されて、エスパルト国第一王女 ライラ・エスパルトはレオパレル国王 レギン・オル・レオパレルの正式の妻(妃)となった。
結婚の儀(結婚式)から一週間……。
レギンの部屋から一歩も出ていない。
運ばれてくる食事はレギンの手で口に運ばれて食し、お風呂もレギンの手によって体を洗われていた。そして昼夜問わずレギンに抱かれてライラはそろそろ限界にきていた。
「もう、無理!」
レギンが水を飲んでいる隙に、残っていた体力を使いライラは動いた。少しフラつきながらベッドの上から降りて壁際背に寄りかかった。
「これ以上私を抱くならば、お前を倒す!」
はぁはぁと荒い息を吐きながらライラは声を絞り出した。
「……まだ足りないが?」
レギンはゴクリと水を飲んだ。水が喉を通り、喉仏が動く。汗がつうっと顎から首筋に落ちていった。
ライラは布一枚、胸から覆っただけの姿。形のいいピンと張った胸にくびれた腰。鍛えたしなやかな体。体中に散った赤い跡を見ながら、レギンはライラに言った。
「……武器も無しに俺を倒せるのか?」
ごくごくとコップに入っていた水を飲み干した。
「くっ……!」
確かに武器も無くレギンを倒せるとは思えない……。
ライラは、テーブルの上にあったお義理母にもらった回復薬を掴み飲んだ!
コクコクコク……!
「あ!!ライラ、待て!」
コクコク……、?
「えっ!?…もの凄く、マズイ!!?」
あまりにもマズく、ごほごほと咳き込んでしまった。
「遅かったか。すまん、悪かった」
そう言いライラに近寄り体を隠していた布ごとレギンはライラを抱き寄せて、背中をさすった。
「母の回復薬はよく効くが、マズイので有名だ」
「うう……、ごほっ」
「ほら、水を飲め」
ベッドの上でレギンに水をもらって飲む。
「……無理をさせたか。すまん」
レギンが頭を撫でた。
息を吐いてレギンは、
「マギーを呼ぼう。二、三日ゆっくり休め」とライラに言った。
「え?」
レギンは水の入ったコップを受け取り、ライラをギュウと抱きしめた。
「つい、夢中になった。すまない」
唇をライラの首筋に触れて低い響く声で言う。ぞくりとライラは身じろぎをした。
「もうお前は俺のものだ。誰にも渡さない」
「……レギン」
しばらく抱き合っていた。
ライラはレギンの赤い髪に触れて目をつぶった。
「私は貴方のものであり、貴方は私のもの……だ」
ライラはレギンに言った。レギンは顔を上げてライラを見た。
「そうだな」
二人は自然に唇を合わせていた。
トントントントン……。
「ライラ様……?レギン様に呼ばれて参りました。マギーです」
遠慮し扉を開けずにいたマギー。しばらくしてから、カチャリと扉が開いた。
「ライラを二、三日ゆっくり休ませろ」
レギン王がライラの腰を抱いて歩きだした。マギーが来る前にレギンは、ライラの体を清めて服を着替えさせた。
「は、はい!」
少しぐったりとしたライラを連れて隣のライラの部屋に連れて行った。マギーはレギン王の後についていき扉を開け、レギンはライラをベッドに寝かせた。
「ライラ、ゆっくり休め」
頭を撫で、額にキスをして部屋を出て行った。
「ライラ様!大丈夫ですか?」
マギーがライラに話しかけた。
「お義理母からもらった回復薬を飲んだから大丈夫だけど……、少し休むわ……」
そう言ってライラは目をつぶり、あっという間に眠りに入ってしまった。
「……ん?あれ?」
「ライラ様!お目覚めですか?」
あれ?私……?
「結婚の儀から一週間レギン王と一緒に過ごされて、その後ライラ様のお部屋でお一人で二日間起きずにお休みになられてました」
早口で状況を言うマギー。
「え!嘘っ!」
「嘘ではありません。ライラ様」
マギーはにっこりと笑い、話した。
「お疲れなのは当然です。ゆっくり体を休めて下さいね」
「マギー…… 」
「お腹がお空きでしょう?何か食べ物を持ってきますね」
そうライラに話して部屋を出た。
「二日間、寝ていたのか」
結婚の儀から、王の隣の部屋が自分(妃)専用の部屋になった。まだ慣れぬベッドの天井を見てため息をつく。部屋自体は必要な物以外スッキリとしていて、壁紙もグリーン系で草花が小さく書かれておりとても好みだった。だが、王の部屋で一週間も過ごしてしまっていた。
「あれほど加減して下さいと、申していたのに……!」
声の主は黒いオーラをまとい、両手のこぶしをギリギリと握りしめていた。
「マギー!?」
驚いた。いつの間にかマギーが部屋に入っていた。
「あ、申し訳ありません!」
ペコリと頭を下げた。黒いオーラはふと消えた。
「私室で気配を消すのは禁止の筈だが?」
ライラはチラリとマギーを見て言った。
「申し訳ありません」
マギーはしれっと言った。
カラカラと何か食べ物を乗せたワゴンを運んできた。
「最近、ベッドの上ばかりで食事しているような気がする…… 」
美味しそうなスープの香りが漂ってきた。
「ですね」
マギーがお皿に入った黄色のスープを持ち上げた。
「お手伝いいたしますか?」
「いや、大丈夫」
ライラはマギーに答えるとスープの入ったお皿を受け取った。
「うん。美味しい」
ライラはスプーンでスープをすくって飲んだ。
「おかわりもありますからね」
マギーはパンをトングでお皿に移した。
「パンもありますからね」
「ありがとう、マギー。いただこうか」
「お取りしますね」
朝の光の中、ライラは穏やかに朝食を摂っていた。
すると、ドンドン!ドンドン!と乱暴に扉が叩かれた。
「何事ですか!誰です!?無礼ですよ!」
慌ててマギーは扉に駆け寄った。
「まて、マギー。急ぎの用かもしれない」
ライラに制止されて、マギーは握っていたこぶしを緩めた。
「おくつろぎの所、申し訳御座いません!北より怪しげな集団がこちらに向かっているとの報告がありましたので、急ぎライラ様のお耳へと……!」
扉の向こう、レギン王の側近のマレットの声だった。
マギーがライラの方に振り向いた。
「急ぎ、玉座に向かう」
ライラがマレットに返事をした。
「はっ!お待ちしております!」
バタバタとマレットが走っていく足音が聞こえた。
「急いで支度する」
ライラはベッドから降りて衣装部屋へ向かった。
「ライラ様!大丈夫でしょうか!?」
スタスタと歩きながらマギーに言った。
「私の元にマレット来たということは、緊急時でレギン王が留守、……なんだろう?」
振り返らずにライラはマギーに聞いた。
「さ、左様で御座います!」
マギーは急いで支度をし、ライラは着がえ始めた。
マレットがライラの部屋から戻って数分、ライラは現れた。
マレットは女性の支度には時間がかかる事を承知しており、長く待たされる事を覚悟していたがライラはかなり早く現れたのでびっくりした。
「ライラ様!」
オオォー!と集まったレオパレル国の兵士は声を上げた。
「マレット、状況は?」
ライラは甲冑をまとっていた。ドレスで来ると思っていたので戸惑った。
「は、はい。怪しげな集団は北からこちらに向かっているとの報告を受けました!」
マレットはライラから威圧感を感じた。
『美しいだけの姫ではない……』
ゴクリと喉を鳴らした。レギン王に似た空気。マレットはライラに従う事を決めた。
「レギン王に代わり私が指揮をする。間違いがあったらマレット、どんな事でも進言してくれ」
ライラはマレットにそう言った。
「は、はい!ライラ様!」
マレットはひざまつき、頭を下げた。
「マレットも落ちたか」
柱の影でラウンは言った。
「誰が落ちたって?」
スッとマギーがラウンの横に立って言った。
「うわっ!びっくりした!」
ラウンは一歩思わず飛び退いた。
「失礼ね。気がたるんでいるわよ」
マギーは腕組みをし、ラウンに嫌味を言う。
「言うね」
ラウンはへらへらと笑って言った。
「力強い、お妃様だ」
ラウンも腕組みをしてマギーに言い、マレットの方へ行った。
「ラウンも相当、腕が立つ人よね」
マギーはポソリと言った。
「ライラ様はやはり、おしとやかにお妃様は出来なかったわね…… 」
はぁぁぁ、と大きなため息をついた。
「ま、いっか」
マギーもライラの側に駆け寄った。
「武器を持った怪しげな集団がこちらに向かっているとの報告。レギン王がいないからと甘く見られたようだ。皆で返り討ちをする!手を抜くな!!」
ライラは皆に大声で伝えた。
うぉぉぉぉー!と皆の声が響き渡った。
「ライラ様!ライラ様!ライラ様ー!!」
男も女もライラの名を呼んだ。誰も逆らう者はいない。
「レオパレル国民、掌握したっぽい」
マギーはソロリとライラ様を見上げた。
ライラ様のまわりをキラキラと光り、飛んでいたものが見えたのは気のせいか。マギーは目を擦った。
~~~~~~~~~~~~~
「ライラ、よくやってくれた」
レギン王がレオパレル国に戻りマレットから話を聞いた。怪しげな集団は、トルト国貴族の残党から雇われた傭兵だった。ライラはレオパレル兵士を指揮し、無事に怪しげな集団を返り討ちをした。
玉座に座りレギン王は満足げに笑っていた。
「ライラ様の指揮は完璧でした!」
興奮しているマレットは声をいつもより高めにレギン王に報告をした。
「そうか。皆も大義であった!」
レギン王がそう言うと歓声が上がった。
レギン王の部屋。
ライラと側近達を連れてソファでくつろぐレギン王。
「皆を掌握したか」
「そのようです。レギン様」
マレットとラウン、マギーは頷いた。
「まさか姫が、このような指揮ができるとは思いませんでした!」とマレット。
「完璧だね」とラウンは言った。
「おしとやかにお妃様をして欲しかったです……」とマギーが言った。
「俺はおしとやかな妃はいらん!」
レギン王がお酒を飲みながら呟いた。
「ライラ姫はレギン様の理想の女性だったもんな!」とラウンは言った。
「え?」
ライラは驚いた。
「そろそろ下がらせて頂きますわ、レギン様ライラ様」
マギーが気を利かせて言った。
「そうだな。レギン王、失礼いたします。また明日に。怪しげな集団の事について詳しく調べ、まとめます。では」
そう言ってマギー、マレットとラウンは出て行った。
「マレットは元トルト国王女と結婚し、トルトの領地を管理してもらう事にした」
皆が部屋を出て行った後にレギン王は私に話してくれた。
「トルト国はなくなり、トルトという地名になった。レオパレル国とエスパルト国の監視領地とし、王政ではなくなった」
「王政廃止……」
レギンは綺麗な技巧を施してあるグラスにお酒を注ぎライラに勧めた。
「近隣諸国で集まり会議をしてきた。トルト国の王族、貴族はかなり酷い行いをしてきた事が分かったので裁判をし、決まった」
淡々とレギンはライラに話している。
「エスパルト国だがお前の妹の結婚相手に、ガイル将軍が候補になったそうだな」
レギンは手に持っていたグラスのお酒を一気に飲んだ。
「レイーナの相手にガイル将軍が」
エスパルト国の王族は私と妹だけ。“ガイル将軍が次の王へ” と、父から聞いた事があった。年が近い私と将来、婚姻を結ぶ可能性があった。だが私はレオパレル国レギン王と結婚した。
「残念か?」
レギンは私の手を取り、引いた。顔が目の前にあってレギンの瞳をじっと見た。
「ガイル将軍は私の剣の師匠だ。お互いそんな気は無かった」
私はレギンに言った。
「そうか」
安心したかのようにレギンは私を抱きしめた。
「レイーナとガイル将軍か……」
私は呟いた。
「案外、合うかも?」
しっかりした真面目なガイル将軍とおっとりした美しいレイーナ。見知らぬ所へ嫁ぐより良い。
「俺は “子供” はたくさん欲しい」
「!?」
レギンがいきなりライラに言った。
「賑やかに暮らしたい……」
レギンはそう言ってライラの肩に顎を乗せた。
「俺は一人だった。命を狙われ生きてきたから、子供達にはそんな目にはあわせたくないし、絶対に守ってみせる」
腕にぎゅっと力がこもった。
「……私も貴方を守ってみせる。子供達も」
ライラはまだ見ぬ子供達を想像した。レギンの赤い髪にそっくりな子供達。賑やかに笑い、微笑む。
「いいわね」
ライラは今まで想像もしなかった。だが、『悪くない』と思った。
「10人は欲しいな」とレギンは言った。
「最低でも10年以上はかかるから無理」
ライラは現実的なことを言った。
「そうか」
レギンは顔を上げてライラを見つめ、二人は笑った。
そう遠くない未来に二人の願いは叶うだろう。二人の物語はこれからも続いて行く。皆と一緒に。
~終わり~
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