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5,歓迎の宴
レオパレル国に到着したライラ姫達は、男女それぞれ控え室に通されてくつろいでいた。質の良い温泉がひかれてあり、とても気持ちが良かった。
「さあ、姫様。気合いを入れて準備をいたしましょう!」
ズラリと化粧品から宝石類、ドレスらが並んでいる。
「別にいつものより少し化粧してくれればいいよ」
ライラはクスっと笑いながら言った。
「ええ!?ライラ姫様の御披露目ですよ?」
「そうだけど……。この国では、結婚式は一ヶ月後に行われる」
まん丸目をしてマギーはライラ姫に聞いた。
「そうなんですか?」
「そうらしい。なので気合いの入った化粧はその時でいい」
ライラはコップに入った水を飲みながら言った。
「この国に入ったからには、こちらのしきたりに従うつもりだ」
「ライラ姫様、さすがですわ……」
うっとりと、自慢の姫様の顔を見つめた。
「もちろん嫌な事は、はっきり断るが」
「……訂正させて頂きます」
ガックリとマギーは肩を下げた。
もうすぐ歓迎の宴が始まる時間。
「姫様、お化粧はこんな感じで大丈夫でしょうか?」
目を開けるとほんのりお化粧され、可愛らしく見える自分が鏡に写っていた。
「凄いな。ちゃんと女性に見える」
目をぱちくりさせている。
「だから女性ですって」
マギーは仕上げに唇に艶が出るように薄く溶いた蜂蜜を塗った。
「ライラ姫様宴のお時間になりました。よろしいでしょうか?」
先ほど案内してくれたカノンの声だ。
「参ります」
ライラ姫は立ち上がりマギーにうなずき、宴の間へ向かった。
城の色々な所で賑やかに何人かで酒を飲み交わしている。
「まあ。もう酔っている方が」とマギー。
「お祝い事ですので……。と、言いますがみんな賑やかな事が好きなので特に今日は盛り上がっています」
カノンは歩きながらそう言った。
ライラ姫はベール越しに城の中や人々を観察していた。
レオパレル国の人々は鍛え上げた逞しい体つきをしていて、男女とも背が高い。椅子やテーブルをあちこちの通路に置いて飲んだり食べたりしているが、床に直に座り布を広げそこにお皿を置いている者もいる。マナーは……自由らしい。
皆何かしら武器を携帯しておりすぐに戦闘出来る心構えだ。まあ、お酒を飲んで騒いでいるが。
城の中を進んで行く。
ライラ姫に気がついた者達は酒を飲んでいた手を止めて見た。
「おお!エスパルト国からやって来た姫だ!」
若い男達からざわめきが起こる。
「顔は見えないが、しっかりとした感じの姫様だわね~」
料理を切り分けている何人かのおばさん達。
「ひょろひょろの細い姫が来るって聞いたけど?」
「逃げださないと、いいけどねぇ……」
「私達をまとめられるのかしら?」
クスクスと笑う、若い年頃の女の集団。
ライラの耳にも聞こえてくる。
『なるほど。このへんは貴族達とかわりがないな。いや、貴族達よりは話が通じそうだな』と心の中で思った。
石造りの階段を登って行くと、扉がない広い"間"があった。
一番奥に一段高くなった場所に豪華な布やクッションがいくつも重なってあり、そこにくつろぐ一人の男が座っていた。
王だろう。
まだここからでは顔が見えない。
一段下がり左には高貴そうな女性が扇を持って座っているのが見えた。その両壁にズラリと人々が座ってライラ姫を見ていた。
顔をうつむき気味にし、前に進む。
マギーがゴクッと喉を鳴らしたのが聞こえた。
カノンがライラ姫のすぐ横に付き、王の前まで誘導してくれる。
「こちらでお待ち下さい」
カノンがそっと声をかけた。
ライラ姫はドレスを指の先で持ち優雅に王に礼をした。
頭を下げて王の言葉を待つ。
ガサッ…。しゅっ、しゅっ。衣づれの音が聞こえる。
王が立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「! 」ライラはピクリと動いた。
「顔が見えぬ」
シャッ!
王は剣を抜き、ライラ姫のベールを剣先で乱暴にめくった!
「王!」
カノンは思わず声をあげた。
はらり…と、ベールはライラ姫の後ろに落ちた。
「姫様!」
マギーは思わず声をあげた。
ライラ姫は微動だにせず目を開け、王を真っ直ぐ見据えていた。
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