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8,朝になる前に
「ん……」
少し寒気がして目が覚めた。気温が低いみたいだ。
まだ薄暗く誰も起きてはいないようだ。
ここは山の頂上付近のレオパレル国。そう思い出すには少し時間がかかった。
ライラ姫は起き上がり、いつもと違う支度をした。
そっと部屋を抜け出し人が来ないような場所に向かった。ライラにとっては抜け出すのは簡単な事だった。まあ、いつも後でマギーに見つかり怒られるのだが。
カシャン……。
鉄柵を静かに開けて建物の裏手の、誰も足を踏み入れてないような場所に着いた。
『ここなら大丈夫だろう』と夜も明けてない薄暗い所で、剣を抜いた。
シャ……ッ!
ライラ姫の今の出で立ちは、簡易な鎧と頭からスッポリ被る兜をまとっていた。
マギーが見たら卒倒するだろう。
ライラ姫は軽く体操をし剣をふり始めた。
幼い頃から身についている剣の型。
強くなりたくて夢中で剣を持ち、鍛錬した。
結婚……というものでもう剣を持つことも出来ないのだろうか?
……だとしたらこんな風に秘密に抜け出して剣の鍛錬を続けよう。
程よく体が暖まった時、カシャンと鉄柵が開いた。
「なんだ、先客がいたか」
「!?」
油断した。まさか人が来るなんて。
ライラ姫は剣を収め、声の主の方へ振り返った。
「エスパルト国の騎士か?良い心掛けだ」
そう言った人物は、レオパレル国の王・レギンだった。
ライラ姫は『また王かー!!』と心の中で叫び、
鎧や兜をまとってて良かった……!と、冷や汗をかいた。
ライラ姫は片膝を地面につき、右手を胸にあて頭を下げた。
自国の王に対する最大の敬意を表す『礼』だ。
「立て。見てたがなかなかの腕だ。相手をしてくれないか?」とレギン王は言った。
すぐにこの場から去ろうとしたが、剣の相手をしなくてはならなくなった。『またか……』なぜか王からはいつも逃れられない。
冷や汗をかきながらコクリと首を縦にふった。
兜を被っているので顔は見えないし、簡易な鎧とはいえ体の線もわからないだろう。
お互いに向き合い、礼をする。
「遠慮はするなよ!」
レギン王がいきなり向かってきた。
キィン!
レギン王の剣を横に流した。
「ほう……?かわしたか」
ライラの手がビリビリとしびれる。
『力が強い……さすがレオパレルの王だ』
ギリリと奥歯を噛んだ。
構え直してレギン王に向かう。
「は!」
キン!
頭上から剣を振り落とす。互いの顔のそばで剣が交わう。
「ぐ……」力では負けるライラ。
「ちっ!」力で勝てそうだが相手は手練れだ。警戒するレギン王。
レギン王の力が強く押し気味だったが、全鎧の騎士は剣を交差したままいきなり しゃがんだ!
「何だ!?」
グラリと体制を崩すレギン王。
そこに剣がレギン王の首筋に向けられる。
しかし!
キィン!!
ライラの剣が宙にクルクルまわり、ザンッ……!と地面に突き刺さる。
はあはあ……。
息切れがする。山の上だからか。
ライラは再び片膝を地面につけ、王に礼をする。
「なかなかな腕だ。エスパルト国にも良い騎士がいる」
レギン王は剣を収めた。
「これをやる」そう言ってライラの手に何かを渡した。
見るとコイン位の大きさの赤い石だった。
「また会ったら付き合え」
そう言い息切れ一つせずに帰って行った。
「悔しい」
ライラは赤い石を握りしめ、そっとつぶやいた。
_________
太陽が昇り明るくなって来た。
ライラ姫は皆に知られず部屋に戻っていた。
さっぱり温泉で汗を流しそしらぬ顔でマギーに手伝ってもらい着替えていた。
「今日は午前中にマリアンヌ様とお茶会を致します」
「え?お茶会?」
「そうですわ。ライラ姫様」
マギーはライラの髪型を整えていた。
「そうか……」
いつもなら馬に乗りに行っていたのにな……。
ライラ姫は軽くため息をついた。
エスパルト国のような派手なドレスではなく、シンプルな青色のドレスを身につけた。後ろに髪の毛をまとめて、一つ髪飾りをつけただけの髪型だ。
「マリアンヌ様とレギン王とどなたかとライラ姫様の簡単な形式のお茶会と聞きました。もっとライラ姫様を飾りたかったですわ~」とマギーは少し残念そうにしている。
同じ王族の女性だからかマリアンヌ様は私を誘ってくれたのだろうか。
お茶会や夜会などは貴族では慣れたものだ。
私は断りほとんど顔を出さなかったが……。
「こちらのお菓子はどんな味でしょうね?ライラ姫様」
「お菓子もそうだけどお茶も好きだから気になるね、マギー」
ライラ姫はお茶会を楽しむ事にした。
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