ゆらゆら揺れる水の向こうには、 滑走路

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搭乗待合室からぼんやり外を眺めていると、 水しぶきを上げながら、 飛行機が滑走路へ滑り込んだ。 〜〜便でにて、東京羽田空港へご出発の お客様にご案内いたします。 ただいま、使用機が25分遅れで到着いたしました。 そのため、出発が15分遅れの 13時40分、午後1時40分へと変更いたします。 出発のお客様には、大変ご迷惑を……〜〜 15分遅れか……、 宮崎(みやざき)晴紀(はるき)は時計を確認した。 まだアナウンスは続いていた。 〜〜尚、羽田空港上空、天候不良の為、 羽田空港に到着できない場合、 当便は○○空港に到着地を変更、もしくは、 出発空港に引き返す可能性がございます。 ご利用のお客様には……〜〜 「先輩、前の日に入っといて良かったですね、  これ、当日だったらヒヤヒヤもんですよ」 後輩の石田が、晴紀に話しかけた。 「ホントだなぁ」 スポットに誘導されてきた飛行機には 容赦なく雨が打ちつけていた。 雨がっぱを着た男性職員たちが、 忙しそうに働いていた。 ボーディングブリッジが横付けされ、 搭載のトラックたちもやってきた。 改めてよく見ると、 なるほど、こうやって荷物が運ばれるのか、 晴紀が見入っていると、石田もそれに気付き、 「働く男ってカッコいいっすよね」 などと言っていた。 気付くと、ゲートに係員がスタンバイしており、 そろそろ搭乗も始まるようだ。 晴紀は身の周りを片付けた。 ゲートの混雑が収まるのを見計らい、 晴紀と石田は搭乗した。 ドアクローズが済み、 ボーディングブリッジが離れた。 機内ではCAがアナウンスしており、 場合により激しく揺れる可能性もあるが、 運航には差し支えのない旨、説明していた。 飛行機は速度を上げ、離陸した。 少し揺れ、雲を抜けると、 嘘のような青空が広がった。 機内誌を読んだりしていると、 アナウンスがあった。 やはり羽田上空に雷雲があり、 上空にて、天候回復待ちをするとの事だった。 機内はザワついた。 どれぐらい経っただろうか、 着陸態勢に入るので、 いまいちどシートベルトの確認をと アナウンスがあった。 まもなく機内は激しい揺れに見舞われた。 しばらくして、下降していると思われた機体が、 上昇に変わったようだった。 それから機長によるアナウンスが入った。 着陸を試みたがかなわず、 出発空港に引き返すとの事だった。 それからしばらく、かなりの揺れが続いた。 あまりの揺れに、晴紀は気分が悪くなってきた。 何とか持ち堪え、飛行機が出発空港に到着した。 晴紀は、ほうほうの体で出発ロビーに たどり着いた。 石田は、晴紀をベンチに座らせると、 薬を買ってくると言った。 しばらくして、石田が薬を持って 戻ってきた。 薬を飲んで、グッタリしていると、 石田が係員と話していた。 「お客様、お連れの方の具合はいかがですか?」 「おぅ、旗野! 随分丁寧だな!」 どうやら、石田はその係員と知り合いの ようだった。 石田は振り返ると、晴紀にたずねた。 「先輩、大丈夫っすか?」 少し薬も聞いてきたようだった。 「だいぶラクになってきた」 係員が心配そうに、 ミネラルウォーターを差し出した。 「これ、良かったらお飲み下さい」 晴紀が受け取ろうと手を伸ばすと、 石田がニヤニヤしながら言った。 「水よりゲロ袋のがいいんじゃないっすか?」 すると係員は、 「え、お待ちしましょうか?」 と慌てた。 晴紀も、石田のヤツ、何言い出すんだ! と慌てて、 「機内にもありますから」 とか 我ながら訳の分からない事を口走った。 係員は少し微笑むと言った。 「では、CAにも引き継いでおきますので」 CAにまでエチケット袋の事を 言及されるのかと狼狽した晴紀は それは恥ずかしいんで止めるように 伝えた。 係員は立ち上がり、また微笑むと 「かしこまりました。では、お大事に。  気を付けて、いってらっしゃいませ」 と言うと、去って行った。 横でまたニヤニヤしている石田に気付き、 「石田なぁ…」と晴紀がお怒りモードを チラつかせると、 「お礼とか、したくないっすか?」 と石田はしらばっくれた。 「それは…、したいねぇ…」 晴紀はお怒りモードをやめて答えた。 「じゃ、連絡するように伝えますね、  旗野に」 搭乗待合室の外を見遣ると、 雨は少し小降りになっていた。 係員からもらったミネラルウォーターを掲げ、 水越しに外を見てみた。 ゆらゆら揺れる水の向こうには、 滑走路が見えた。
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