4人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「ねぇ 教えて」
長い髪を綺麗に結わえ、純白のドレスを着た彼女は問いかけた。
「何を?」
「どうして私の付き添いを選んだの?」
子猫のようなイタズラな目で俺を見つめる彼女は、愛しい以外の何物でもなかった。
「・・・美味しかったから・・・」
「え?」
「砂糖菓子・・・久しぶりに美味しいものだったから・・・」
「それだけ?」
彼女はクスッと笑った。
厳格な家庭で生を受け、他者との交流を避け続けるよう教育された俺は、いつの間にか、攻め入ることができない壁を築き、誰からも嫌われることを良しとした。
『これ食べる?』
『・・・勤務中の飲食は禁止だ』
『フフッ・・・』
『・・・何がおかしい』
『ここの人たちってみんな同じことを言うのね。躾の良いチンチラみたい。』
『・・・バカにするな』
『気が向いたらで良いわ。お上の人には内緒よ♡』
そういって、銀箔の包みを無理やり握らせた。
ブロンドヘアの彼女は、何が楽しいのかずっと笑っていた。
「だってあなた顔色悪そうで、いつ死んじゃうか分からなかったんだもの。」
「余計なお世話だ。」
「あら、相変わらず愛想がないことっ」
彼女は少しムッとした表情で赤い唇を尖らせた。そのルージュに、何度触れたいと思ったか・・・口をつけなかった菓子が今では悔やまれる。
「・・・どうして俺を選んだ?」
「私?」
彼女は遠くを仰ぐように見つめて目を閉じる。
「あなたの話が、すごく面白かったからかな。」
「・・・何だそれ」
嫌な思い出を蘇らせぬよう吐き捨てる。
「だって本当に面白かったんですもの!」
彼女はあの頃のように、目を輝かせた。
『退屈なの。何か話して頂戴。』
『・・・むやみに口を聞くな。位が異なる者同士の対話は禁じられている。』
『あなたっていつも禁止ばかりね。いーじゃない。ほんの羽伸ばしだと思って。』
『・・・』
俺は辛うじて覚えていた逸話を手短に話した。強弱も抑揚もなく 淡々と語った。
彼女はベッドにうつ伏せになって聞いていた。
『それで?』『どうして?』『なに?』矢継ぎ早の質問に、俺は機械のごとく答えた。
いつもより言葉を流暢に語ることができた理由を、あの日は知る由もなかった。
最初のコメントを投稿しよう!