苦くて、甘くて、すっぱくて

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柔らかな笑みを浮かべる店長の顔が私の視界にくっきりと映る。 「えっと、友達と喧嘩しちゃったんです。1番の仲良しの子と。些細なすれ違いでちょっと揉めちゃって…。そんなに言うつもりは無かったんですけど売り言葉に買い言葉で思ったよりも激しく言いあっちゃって」 自分でも驚く程に言葉がスラスラと出てくる。 もしかしたら誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれない。 「本当はその場で謝って仲直りすべきだったんですけど、変なプライドが邪魔しちゃって謝れなくて…。結局下校時まで謝れなくてギクシャクしたまま1人で帰ってきたんです。その途中にこのお店を見つけて気分転換になったらいいなって思って入ったんです」 「そうなんですか」 「私、そんなに暗い表情してましたか?」 自虐するように笑みを浮かべて尋ねた。 「暗い表情というか、目が悲しげだったので」 少し気まずそうに話す彼に申し訳なくなって目の前に置かれたキャンディを口の中に放り込んだ。 「あ、おいしい……」 お祭りで飲むラムネのような、どこか懐かしくて甘い味が口いっぱいに広がる。けれど甘いだけじゃなくて少し酸味もあって形容しがたい味だ。 「これ、何の味なんですか?」 今まで味わったことのない風味に驚き、聞いてみた。 「梅雨空のキャンディはアリッサムとハイビスカスの花から抽出したエキスを使ってます。アリッサムってあんまり知名度はありませんけど可愛らしいお花ですよ」 そう言って見せられたのは紫の小さな花。初めて見たがとても可愛らしい。 「ほんとだ、綺麗な花ですね」 「ちなみにこの花の花言葉は〖 仲直り〗や〖素直 〗なんです」 「え」 嫌な考えが頭をよぎった。彼もそんな私の様子に気づいたのかあたふたし始める。 「花言葉に関しては偶然ですよ!ただお客様の雰囲気だったら梅雨空のキャンディだなって思ってお出ししただけです」 「そうなんですか」 どぎまぎする姿が滑稽で思わず笑ってしまった。 「良かったですお客様が笑ってくれて……。少しは気分転換になりましたか?」 「はい、おいしい物食べてお話してたら少し楽になりました!」 「なら良かったです」 そう言って彼は厨房の方へ戻って行った。
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