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「そこ、私のお兄ちゃんのお店」
「え!?」
確かに言われてみれば、あの人はどこか彩希に似ていたかもしれない。既視感を覚えたのはそういうことなのかとひとりでに納得する。
「まさかこんな偶然があるとはねー」
「うん、全然気づかなかった」
あのお店での出来事を思い返してみる。まるで絵本の中のような、淡くて甘くて不思議な時間のことを。
「ん、これ美味しいよ」
彩希が飴玉を口に含んで言った。現実と夢が繋がったような、不思議な感覚に陥る。
もう1つのキャンディをポケットから取り出し、口に放り込む。
「ほんとだ、おいし……」
爽やかな花の匂いが口いっぱいに広がって、じんわりと甘みが溶けだす。甘いだけじゃなくて、ほんのり苦さもある飴玉。
ふと隣を見れば彼女が微笑んでいた。自然と私も口角を上げる。彼女が感じている味と私の口の中に広がるこの味が同じなんだと考えると少しだけ、くすぐったい気分になった。
泣き出しそうだった空はいつの間にか晴れている。少し生ぬるい夏風が2人の間をすり抜けていった。
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