雨空にシャンソン

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-- 「また、来週。失礼いたします」 「ご苦労様です。また来週、ごきげんよう」  私は玄関先でいつものように挨拶をして、週に一回通っているお花の先生の家をあとにします。  花嫁修業にとお母様に勧められたのです。他にも茶道もしています。お裁縫も料理もそれなりに教え込まれています。そのことに関しては、別に嫌ではありませんでした。元々嫌いではなくむしろ自分に合っていると思うのです。飛びぬけた才能はございませんが、それなりにそつなくこなす器用さはありました。かと言って何でもこなす器用さはなく、ユリエさんのように体操は得意ではありません。殿方に意見をするほどの度胸も興味もありません。結婚をせずに男性社会で活躍したいとか、思ったこともありません。  私は多分、そんな女なのです。そして、時々、あのシャンソンの女を思い浮かべるような女なのです。  外は今にも雨が降り出しそうです。夏の空は気まぐれで、晴れていたかと思うと激しい雨を降らせたりします。激しい雨の前触れを思わせる匂いを微かに感じ、私は急いで家に帰りました。  案の定雨は降り出しましたが、私をそんなに困らせるほどではありませんでした。家に戻り濡れた衣に布をあてながら滴り落ちる水を拭い、お母様に戻った旨のこと報告しに行きました。
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