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泣く傘
「傘が泣いている」
「は?」
「だから、傘が泣いている」
「傘って泣くものだったっけ?」
「普通は泣かないだろうな」
「え、意味が解んないんだけど」
「お前の傘の定義は何だ?」
「いやいやいやいや。傘の定義って何よ? 雨が降ったら身体が濡れないように差すとか、強い日差しを遮るために差すとかでしょ」
「うむ。そうだな。上から何かが降ってくる物を遮断するためのものだな」
「世間一般ではそうでしょうよ。で、傘が泣くってなんなのよ?」
「玄関に傘があるだろう?」
「あるわね。和傘の三十六本も骨がある立派な赤いのが。あれ誰が買ってきたのよ」
「昔から屋敷にあるものだ。誰が買って来たかは知らぬ」
「それでその傘がどうしたのよ」
「先ほどから雨が降っているであろう?」
「うん」
「庭先の池の金魚に餌をやろうと思ってな、傘を差し外へと出たのだ」
「うんうん。雨が降ってる中、餌をあげようとするのはおかしいけど、まぁいいわ」
「軒先で傘を広げると、雨が降ったのだ」
「は? 雨が降っているから傘を差したんでしょう?」
「だから傘を広げると、雨が降ったのだ」
「えーと……私の理解力がないのかしら?」
「傘の柄を持ち広げて差せば、傘の内側から雨が降ったのだ」
「穴が開いてたってこと?」
「違う。傘に穴は開いていなかった」
「……何かのとんちかな?」
「事実だ」
「どうして傘の内側から雨が降るのよ。そもそも傘にそんな雨を蓄えて降らせる機能なんて付いていないでしょう?」
「だから傘が泣いているのであろう」
「雨じゃなくて涙を降らせているっていうの? 生き物じゃあるまいし、何言ってんのよ」
「確かに涙であるならば塩辛いはずだが、水だったな」
「いや、そこじゃないでしょ、おかしいのは」
「しかし実際に傘の内側からずっと雨が降っているのだ」
「もう、何を分けわかんないこと言ってんのよ。いいわ、わかった。傘は玄関にあるのよね?」
「うむ」
「ちょっと行って見てくるわ」
「気を付けて行け」
「あんたも一緒に行くのよ!」
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