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ルイは今朝、所属している部署の上司に呼び出された。
「はい、何ですか?」
「蛇岩警視正がお呼びでね。行けばわかる」
「はい」
「先に言っておくが、僕は君と仕事したいと思ってるよ」
人事異動だな。ルイはピンと来た。課長は悲痛そうな顔をしている。ずいぶんと可愛がってくれた人だ。ルイは微笑む。
「ありがとうございます、課長」
「うん……」
何事かと見守る仲間たちに手を振って、ルイは蛇岩警視正の待つ部屋に向かった。
「久遠警視です」
「入ってください」
蛇岩レン警視正は、オールバックの総白髪に、上等な茶色いスーツを来た体格の良い男性だった。体格が良いと言っても極端に筋肉質だとか肥満体だと言うわけではなく、骨格からして大柄なのだ。
「こんにちは。お呼びですか?」
「忙しいのにありがとう。警視になってから1年だけど、どう?」
「楽しいです」
「そうか。課長から聞いてるか?」
「行けばわかると言われました。異動ですか」
「そう。異動なんだ。聞いた話だけど、君は報道関連の論文を書いたそうだな」
蛇岩はパソコンを見ながら言った。どうやら、ルイの情報を集めていたらしい。
「はい」
「その時に、噂についても少し書いたとか」
「都市伝説のことですか? 警察が関わるような事件でも、都市伝説化するものはありますし、都市伝説によって警察が出動することもあります」
「そう。その通りだ。警察の仕事にその知識は役に立っただろ?」
「多少は」
子どもたちと話すときに役に立った。奇妙な噂話でも、ルイが「それ知ってるよ」と言えば、例え彼らの知るものと多少違っても、話のきっかけになる。噂に興味を持っている大人、として、話をしてくれることはある。
「その知識と、職務に対する態度を評価して異動して欲しい」
「はい」
「今の部署に未練はあるか?」
「とても。楽しかったので」
「ここもそう悪くない。久遠ルイ警視」
「はい」
「本日を以て、貴官に警視庁都市伝説対策室の室長を命じる」
「室長!?」
「驚くのはそっちか? 警視ならおかしくないぜ」
「そうなんですけど」
「ちなみに俺の後釜だ」
「警視正の? 待ってください、都市伝説対策室って、それこそ都市伝説じゃ……」
「と、思うだろ?」
蛇岩は目を細めて笑う。
「行けばわかるさ」
こうして、久遠ルイ警視は、都市伝説対策室室長に就任した。出世は出世だが……。
(事実上島流しなのかな……)
と、思っていたのだが、なんと言うか、そんな雰囲気はない。
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