やまない雨とやんでく私

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やまない雨とやんでく私

其の日はどしゃ降りの雨だった。 曇天が好きな私にとっては、切り取った風景を遮る大量の雨粒は嫌悪感でしかない。 外を見渡すと、鮮やかなカッパに身を包んだ無邪気な子供たちが長靴と水溜まりで不規則なハーモニーを奏でている。 予測とは裏腹に、前触れもなく天から降り注ぐ雨は、農業大国を支える恵みでもあるが、私にとってはもはや地表の芸術全てを飲み込んでいく禍々しい流水でしかない。 乾いた後に残るものを見て凡人は何度も頭をかしげるだろうが、歪に修復された自然のキャンバスは更にひと味違った芸術センスを創作してくれることに私は気づいてしまった。 確かに雨は嫌いだ。しかし、私の新しい嗜好を試すには丁度良かった。 自身の美的欲求を静かに終えた後…私は心の奥から歓喜する。その感情が抜けきったときに吹く風は私の心を次の行動へと後押ししてくれる。 止まない雨と病んでいく私…この両者の相互作用は一貫して、私自身の人生には詰みなど決してないと否定してくれる。 見え隠れする天候の崩れ具合などを時折心配する私だが、当該日になるまで絶対に気を抜かないのがポリシーである。 私は前もって選ばない…その刻が来たら、私は倣うのみ。その瞬間の心模様は自然の神のみぞ知る…。 途中で止む雨は不要だ…私の身体や残留物を総じて飲み込んでくれる…止まない雨こそが私にとっての極上の不協和音であることに間違いはない。 湿った前線を通り越してしまった私の感情の高ぶりは止まることを知らない。 私は今日で、不釣り合いな感情を呼び起こしてくれる日々とは無縁な、暗くて冷たい場所に身を潜めて暮らすのであろう。 【完】
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