第一章・―或る女の独白―

3/4
前へ
/10ページ
次へ
 でもね。あの()から話を聞いていても、私の事を責めるような言葉は、何一つ出てこなかった。  何か言い知れない事情があるんだろうと、そうしんみりと話してくれてさ……。  そうさ、あの時は本当にどうしようもなかったのさね。  ……私だって、娘と生きられるなら手放さなかった。  だけど、娘と共に死ぬか、娘を置き去りにして、最期の時まで独りで生き抜くか、……あの時は、本当にそんな選択肢しかなかったのさ。  共に死ぬのなら、離れ離れになっても、どちらも生きる道を選ぼう。  そう考えた私は、身を切るような思いで娘を施設に預けたのさ。  ああ。そりゃあもう、ずっと辛かったよ。  それこそ半身をもがれたような、生きたまま殺されたような思いをずっと抱えて、それでも同じ空の下の何処かで、娘はいるんだからと歯を食い縛って生きてきたんだよ。  娘を施設に預けてからは、毎日泣きたい思いを我慢して。ずっと必死に耐えてきて、娘を探す事も、その後の便りを耳に入れる事もしなかった。  一度は娘を捨てたのだからと、私には母親の資格などないのだと、そう思って耐えてきたのさ。  そりゃあさ、二度と娘に逢えないという事実は辛かったけどね。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加