第一章・―或る女の独白―

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 どうしようもなく辛い時や寂しい時はさ、この世の何処かで娘は生きているんだ。  そう思えばさ、やっぱりどんな辛い事にでも耐えられたんだよねぇ。  それで一度も娘に逢えないまま、いや、逢わないままこの歳まできちまったのさ。  そうすると、この身体にもガタがきてさ、病気になったんだけれど。  生憎とその日暮らしで生きてきた私には、病院に入院するお金もなくてさ、だからもう人生を諦めていたんだけど。  それが数日前、通行人にぶつかってお金を落とした時。それを無視した通行人を睨みながら、一緒に拾ってくれた人がいてねぇ。  何とね。それが偶然、幼い頃に捨てた娘だったのさ。  最初は親切な人だなぁ、そう思っただけだった。  だけど、お金を拾ってくれたお礼にと、少し飲む程度に誘って話を聞いていて、ようやく分かったのさ。  あぁ、これは間違いなく、随分昔に捨ててしまった私の娘だってね。  分かった瞬間嬉しくってさ、嬉しくって嬉しくって、涙が出そうになったんだ。  でもさ、何も知らない娘の前でいきなり泣いたら、それこそ変に思われるだろ。
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