欲しいもの

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「稜ってさ、欲ないの?」 「欲?」 スマートフォンに視線を落としたまま、茉那果(まなか)は隣に並んで寝転んでいる(りょう)に問いかける。茉那果は何かの動画を見ながら、暇つぶしのまた暇つぶし程度の存在で会話をする。 「急だな」 「私たちってもう…、じゅう…2か3年くらいの付き合いじゃん?」 「あー…、そんなだっけ」 「でもさ、意見がぶつかったことってほとんどないよね。物の取り合いとか」 再生され終わり、止まった画面を暗くする。ふと思い出す。誕生日のケーキ、バーベキューのお肉、ゲームのキャラクター、ジェットコースターの座席、車で流す音楽。そのどれもが彼女の望む結果になっていた。 しかしそれは、茉那果と稜の性格が正反対であることが理由ではない。それに茉那果は気づいたのだ。 「あー、それでさっきの質問?」 「そう。もしかしてこの10何年か、ずっと我慢してきたのかなって。そう思ったら恐怖」 「怖がるなよ」 「だって怖いよ。自分押し殺しすぎじゃん。そんなのよくないって」 ふっ、と柔らかい空気が稜の口から漏れた。肩の力が抜け、軽く口角が上がる。読んでいた雑誌から彼女の顔へと移っていた視線が、床へと落ちる。 「ほんと馬鹿だな、茉那果は」 「え?」 「俺は茉那果より貪欲だよ」 チョコレートケーキ、カルビ、ルイージ、席の外側、インディーズのバンド。彼にとって、そのどれもを軽く超えるものがある。優先順位がある。 「じゃあ何で取り合いにならないの?」 「それは…、もう少ししたらわかるんじゃない?」 決して譲っているわけじゃない。稜にとっての1番は、いつも茉那果の「ありがとう」の笑顔だ。 取り合いになることはきっとない。彼女とは。
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