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「ねぇねぇ、私、出席番号29番なんだけど席が分からないの。教えてくれない?」
固まった。3番の席の女子は名前やここに来た経緯を話しているようだったが俺はそんな事を聞いている場合ではなかった。
昨日も女子と話す時のシミュレーションをしていたら妹に暴言を吐かれたばかりなのだ。急に女子に話しかけられたところで上手く返せる自信がない。
それよりも自分の席が分からないのはいいとして違う席に座って聞くか?いやそんな事を考えたところで意味はない。とりあえず奴に助けを求めようと思い横を向くと奴は何か考え込んでおり教える気などなさそうだった。
どうしようか。ここで無視すれば悪評が広がってしまうし隣の無能は何もしてくれない。ならここは俺が教えてあげるしかない。
勇気を振り絞り3番の席に座った女子の方を向きなるべく明るく笑顔で応対しなければ。
「この列は1番から20番までみたいだから、一つ後ろの列なんじゃないかな?」
「そうなんだ。ありがとう」
お、なかなか上出来なんじゃないだろうか。やはり俺は演技上手いのでは?なんて事をそんなことを思っていると、隣で座ったまま何か考えていた無能は真剣な顔をしながらこちらを向いたままだった。
こいつは何を考えているのだろうかと思ったがやがて奴は俺に熟考し出した結論のような重々しい雰囲気を出しながら
「あの人が3番じゃないってことはまだ男が来る可能性もあるよな」
何でクソな結論なんだ。賭け事の事なんて考えていたのかよ。というか顔は真剣だけど目ん玉が異様にキラキラしている。そんなに賭けに負けなくないのか。
「なんだ旭川、あの女の子に見とれて賭けてるの忘れたか?」
もはや呆れてため息をついていた俺にニヤッとムカつく笑顔をしながら揶揄うような口調で言ってくる無能。とりあえず近くの川にでもぶち込んでやろうか。
「いや見とれてないし賭けの事は忘れてもない」
「あの女の子可愛かったのか?」
「いや知らねーよ。よく顔見てないし興味もねーから」
「そこはしっかり見とけよー」
「いやだったら賭け事の事ばっか考えてないで見ればよかったじゃん」
「それもそうだけどやっぱ違うってわかった瞬間考えるじゃん?」
「途中まで話聞いてたなら最後まで聞いて教えてあげろよ」
「いやいや今の俺の中ではこの賭けが最重要案件だからなー」
「確率は1/2なのにそんな最重要案件になるか?」
「そりゃそうだろ」
こいつやっぱり負けず嫌いなのではと思いながら適当に返しながら3番の席の方を見てみると、俺たちが話してる間に既に男が座っていた。なんだよ男かよー。
「ん、どうした?」
気づいていない様子の綾瀬に俺は左見ろと合図を送ってやると、振り返り左が男だと分かった綾瀬はすごい勝ち誇った顔でこっちを見てきた。
……いやそんなにうれしいの?
「この賭けは俺の勝ちだな。俺が困ったとき助けてもらうぞ」
「ああ分かった。俺のできる範囲でな」
さっき条件を飲んだ以上約束は果たさなければ。こいつの手助けとか嫌でしかないが仕方がないか。
嫌な予感しかせずテンションが下がっているとやっと準備が整ったのか司会と思われる教員もスタンバイし体育館は式が始まる雰囲気となり始めた。
「お、入学式始まるみたいだぞ旭川」
「だな」
なんか賭けに勝ってからテンション急に上がってません?こいつ負けず嫌いなんだな。 面倒ごとに巻き込まないでくれよ……。高校生活最初から不安しかねぇなぁ……。
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