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小春日和にパープルのライラックの花が咲く病院を彼女は退院した。
夫と町中のカフェテラスへ訪れた彼女は、丸いテーブルに据えられたスツールに腰を下ろし、注文したカプチーノを前にぎこちない笑みを漏らした。
ペーブメントを疎らに歩く人々を見ながら夫が溜息交じりに言った。
「今年はコロナの所為で皆、マスクをして歩いている。而も間を置いて・・・ソーシャルディスタンスだ。このカフェにしても・・・嗚呼、折角お前が退院できたのに本当の春はいつ来ることやら・・・」
「皆の笑顔が見たいのに・・・」と彼女は答えながら病院の窓からよく眺めていた赤紫の萩の花を思い出した。
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