1人が本棚に入れています
本棚に追加
ところが、コロナの所為で皆、健康的に笑えない上にマスクをしているから病的な作り笑顔すら見れないのだった。
「嗚呼、幻滅。これじゃあ春光も春風も台無しね。」
「全くお前にとって無情の春だ。気の毒なことだ。しかし、気の毒なのはお前だけじゃない。皆も同じことだ。皆、こんな時だからこそ笑顔でいようとし、免疫を付けようと成る丈笑おうと努力している。マスクをしていても・・・」
「面白くなくても?」
「そうだ。」
「助かりたいために?」
「ま、そうだ。お前だって助かりたいだろ。」
「助かりたいけど何だか浅ましいわ。そんなの絶対、健康的とは言えないわ。」
「じゃあ、病んだ笑顔とでも言いたいのかい?」
「そうよ、エゴイスティックな空笑い。」
「それでも皆はそうやって笑い合っている。」
「そんなのイカサマの和みあいよ。私だったらそんな笑顔を見ても元気をもらえるどころか虚しくなるわ。悲しくなるわ、嘆かわしくなるわ。力を奪われるわ。だからこんな所にいるのは私にとって意味がないわ。家に帰ってワンちゃんや猫ちゃんを見てる方がどれだけ良いか・・・そう!アユちゃんどうしてる?メグちゃんどうしてる?」
「アユもメグも笑う時は健康的さ。動物は人間と違って自然体だからねえ。」
「そうね。そう聞いて無性に会いたくなっちゃったわ!打算の一切ない笑顔に!ねえ、早く帰りましょうよ!」
「うん、よし、分かった。」
夫が勘定を払った後、二人はマスクをして手を取り合い未練なくカフェテラスを後にするのだった。
その時、二人の影がジョルジュ・デ・キリコの絵に表れた不安と憂鬱を示すかのようにペーブメントに長く左に流れて映った。
最初のコメントを投稿しよう!