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「お、雨女」
校門を過ぎた私にかけられたのは、そんな声。
「おらっ」
どんっ、と私は大きく突き飛ばされた。その衝撃で私の手から傘が零れ落ちる。
私は躓き、目の前で口を開けていた水溜りの中に倒れ込んだ。
「よっ、パース」
顔を上げると、私の傘が開いたまま投げ飛ばされていた。私を突き飛ばした男子生徒が放ったその傘が高く舞い上がる。
落下傘のようにふわふわとは落ちてこなかった。傘の先端が傾きバランスを崩したそれは、斜めになって地を跳ねた。
「あぶねーよ。んなもん投げんな、ばーか」
「あはは、わりーわりー、行こうぜ」
そして私に振り返ることなく、その男子たちは笑いながら校舎へと進んでいく。
水溜りに倒れ込んだまま雨に打ちひしがれている私を、他の生徒達は遠回りに避けていた。誰も私を視てくれていなかった。
よい、しょ。
いつものように腕に力を入れて立ち上がる。顔を空に向けた。雨が少し強くなったようだ。
眼鏡はもう、その用途足り得ない。視界はぼやけ、世界は歪んでいる。
深緑色を頼りによろよろと歩を進める。路の端で鎮座していた私の傘を手に取り、もう一度掲げる。
よかった。壊れてないみたい。
お祖母ちゃんの傘。とっても丈夫な傘。私を雨から守ってくれる、大事な、傘。
でも不思議。この傘を差すとき、私はいつもしとど濡れる。
こんな濡れ鼠のまま、校舎に入りたくないなぁ。
私は呆と立ち竦む。傘の柄をぎゅっと強く握る。
傘を差して佇んでいる私の視界はずっと歪んだままだ。
眼鏡に落ちる水滴が世界の内外問わず私を侵食する。
校舎に入りたく、ない。もう、学校なんか、行きたく、ないよ。お祖母ちゃん、助けて。助けて……よ。
「うわー、あいつまた泣いてるよ」
「なんであいつ、雨も降ってないのにいつも傘差してんの? まじ、キモいんだけど」
止まない雨はない。
そんなのは、嘘だ。
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