雨音ちゃんは、かさをさす。

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 朝、登校するのは憂鬱だ。  今日もまた雨が降っている。  少しでもその気分を晴らそうと、世界を覆う鈍色を晴らそうと、私はお気に入りの傘を手に取る。  今はいないお祖母ちゃんからの贈り物。  深緑色の地味で頑丈な、私には少し重くて少し大きい、多分、男性用の傘。もう大分古くなっていて、力を込めないとその傘は開かない。  よい、しょ。  いつものように腕に力を入れて、傘を開く。  視線を上げる私の視界が緑に染まる。その緑にポツポツと音が弾ける。雨音が染み込んでくる。  ポツポツポツポツ、ああ、いやだなぁ。  通学路をゆっくりと、大きめの傘で身体を隠すように私は歩く。  背筋を丸めて、俯いて。  通学路をゆっくりと、地面を見つめながら小股で私は歩く。  歩道に跳ねる雨を見つめながら、溜まる水面を踏みながら。  すれ違う人たちが、通り越す人たちが、私のことを訝しげに見ている。無遠慮で好奇心を含んだその瞳がとても嫌らしく感じる。  俯いていても、私はその視線をとても敏感に感じることができる。自意識過剰だろうか。私は微かに顔を上げ、傘と現実の隙間から外側を覗き込む。  ああ、やっぱり。  私のことを蔑んでいる。私の存在を卑しめている。  鈍色に濁った曇天のような数十、数百の瞳が私に向けられていた。その瞳の一つ一つが、私を嘲笑っていた。  私の全身は大きな傘に守られることなく、濡れそぼっていた。
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