30日チャレンジ(抜粋)

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【白い部屋から斬新な展開】  目を開けるとそこは白い部屋だった。ここまで来る道のりは覚えていた。マンホールに落ちて、担架が来て、丁寧に運ばれた。透明な囲いの中の扉が開かれ、今に至る。 「もうすぐ死ぬよ」  声に驚き横を見ても誰もいない。 「見えないのね、おかわいそう」  目をこらすと影があった。鎌を持った、大きなローブを纏った人だった。 【住みたい街】  そこはやけに建物が四角い街だった。 「プロジェクションマッピングってわかるかい?」  引っ越してきたばかりの僕に、街の案内人が言った。 「壁や建物が動くように見えるやつですか」  なんでも、街全体がそうだという。でも、僕には先ほどから一向になにも動いているようには見えない。これを、と案内人に渡されたのは補聴器のようなものだった。耳に掛けるとブオンと片目にスクリーンが被る。突然飴が降ってきて「うわあ」と地味に驚いた。「何か見えたかい」と案内人は笑っている。飴だと答えると、声を上げて笑われた。そのうち道路はクッキー、草花はケーキに見えてきた。建物はスノーボールのように粉砂糖がまぶされている。見えるたび、案内人に尋ねていた。 「君は思うよりメルヘンだね」  なんでも、人によって世界が違って見えるという。案内人にはどう見えているのか気になった。だがこの薄汚れた戦闘服を見る限り、とても温かい世界ではないのだなと僕は思った。 【白雪姫を自分なりに】  姫を囲み、付き人たちはカゴへ木の実を集めていた。 「こびとさん、私お城を出られて良かったと思うの」  切り株に座り、しなやかな手つきで草を編みながら姫は言った。付き人のことを、姫は親しみを込めてこびとと呼ぶ。決して他意はない。 「皆が私に優しくなったわ、木こりさんも、鳥たちも」  姫の周りを囲む付き人たちは頷かないもののしっかりと耳をかたむけている。木こりの末路を、風の噂で知っていたのだ。 「そう、さっきも道に迷ったおばあさまに声をかけたら、とても感謝されたわ」  それを聞き、一番遠くにいた付き人が動きを止めた。 「とっても美味しそうなの、皆もいただきましょう」  姫は照りのいいリンゴを取り出した。付き人たちは「おお」と歓声をあげる。 「行けません、姫様」  先ほど動きを止めた付き人が立ち上がった。 「それは姫様のもの。我々がいただくわけにはまいりません」  その言葉を受けて、他の付き人は落胆した。だが、それも最もだと思い同意した。 「そうかしら、ではひとくち」  シャリっといい音が響き、次の瞬間、姫は切り株からドサッと落ちて倒れた。「姫!」と付き人は駆け寄る。姫はもう、息をしていない。付き人たちはオイオイ泣いた。そうして気付いた。 「おい、姫に食べろと言ったやつは一体誰だ」  振り向けば、先ほどの付き人が見当たらない。代わりにひとつ多い、八個目のカゴが落ちていた。
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