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とある話が存在する。すっかり忘れさられた話だ。
計画の結末、ターゲットの最後とおぼしき情報を、実はハロウィン当日に涼真がネットニュースから仕入れ店長に聞かせていたのだ。
とは言っても涼真も店長も自分たちには無関係と他人事としか捉えておらず、そのせいか一時の恐怖で終わったのも当然のことだった。
いつもの時間に出勤して開店準備に取りかかる涼真は、客用テーブルを拭きながらこう話し出したのだ。
「店長、また怖いニュースを見ました。住宅街の市道で若い男が倒れていたそうです。息はすでにしていなかったみたいで顔には爪痕らしき引っ掻き傷があり、何かに上から圧迫されたかのように肋骨や腕は折れ内蔵も破裂していたそうです。冬眠前の熊じゃないかと書かれていましたが、近所なので怖いです」
「そんなことがありましたか。熊さんも食料を求めて人里まで来たのでしょうが、事実なら確かに怖い事件ですね」
信憑性に乏しいこの内容から後村伸二を連想するのは不可能で、現時点で店長も広瀬も妖怪騒動の結末は不明。
最近あの少年を見なくなったなあと感じていた程度。
ただし百鬼夜行は現実に起こったらしく、証人の意見を少し違う形で広瀬が紹介した。
「ドリームが店長に文句があると、僕に伝言を頼んだんだ」
「ドリームさんが?何でしょうか」
「先日大量の妖怪の気配を感じたので2班総出でパトロールに行ったらしいんだけど」
臭いの元兇らしき住宅街へ辿り着いた蝙蝠のドリームたち。
涼真一家の時より妖怪側の憎悪の力が弱かったためか姿は見えなかったが、地上からはあやかし共の臭いがプンプン。
被害は無さそうなので放っておこうとしたとき、新入りのジュエルが功を焦ったか自己アピールしようと臭いの中心へ突進していった。
自分たちの身を守るためか妖怪たちも思わず反撃。ジュエルは鋭い爪に引っ掛かれて負傷した。
これを受けて昨夜ドリームは無表情のまま声だけは苦々しさを込めて、上空から夜景を見下ろしつつ共に飛翔する広瀬に以下の伝言を頼んだ。
「命令無視し単身で猛進したジュエルが悪いのは確か。本人も反省しているが、ただ悪戯に妖怪を呼んだ店長さんもなあ。ジュエルはウチの班の紅一点で負傷だけはさせたくなかったんだ。まあ次からは事前に教えてくれ」
と、このタイミングで涼真が愛犬と一緒に業務スーパーの買い物から帰ってきた。
「戻りました。あ、広瀬さん、いらっしゃいませ。おふたりとも真剣な表情でしたけどどうしたんですか?」
都合の悪い部分には蓋をして、清水は涼真とも話題の共有。
それから広瀬へと向き直って話を先へ進めた。
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