#1 ハチミツ(2)

2/4
前へ
/109ページ
次へ
* 「店長、あの人落ち込んでましたね?」 愛犬ゴジラと共に隣室から覗き見していた涼真少年が、同情を込めて口にする。 清水店長も異論はないようで、かわいい顔した店員に同意を示した。 「そうですね。アカリさんと違って彼は真剣に交際していたのでしょうね」 「写真の3人のうち、ひとりは店長の変装だと知ったら怒るだろうな」 そう、宮崎祐希に見せた写真の黒髪の男は、ネット通販で購入したカツラをつけた清水の変装。 そして全ての写真を撮っていたのは涼真だ。 ふたりは愉快犯ではない。宮崎には必要以上の落胆を与えてしまい申し訳ないが、目的は過去・現在・おそらく未来と浮気するアカリを懲らしめること。 手間をかけているのだ。彼女の肉体を貪ろうと手間賃の一部にすぎないと清水は思っている。 そろそろ懲罰の開始時期。すでにホテルでの次の会合も決まっており、その時が実行日といま確定させた。 持参品はカツラと涼真が買ってきてくれた、やっと登場のビン詰のハチミツ。 そうして最重要なのが常連客の広瀬から貰った『あの薬』。 使用に至るシチュエーションや薬の種類は毎回違えど、これまでも複数の人物へこの不思議な効果を生む薬を使っての懲罰行為を実行してきた。 それらの行為を広瀬は常々「店長の歪んだ正義感」と本人の前ではっきり語るも、止めるでもなく毎度見て見ぬフリなのだ。 当の清水に歪は認めても正義の自覚はなく、広瀬の発言を聞くたびに否定のように苦笑する。 かといって悪と思うわけでもなく、信念に基づいて薬を使用し懲罰を続けるだけ。 今回もエンディングを目指し話を進めてゆく。 「涼真君、大詰めです。また君に手伝ってもらうのでよろしく頼みます」 「了解です店長!」 一見普通のカフェ内で、穏やかに処罰を企むふたりの若者。 この様子を彼らの足もとから「楽しそう」と羨ましげに見上げるパグ犬ゴジラ。 雰囲気だけで判断してしまう、まだまだ未熟な仔犬であった。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加