#4 百鬼夜行(5)

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* 母親のサンダルを借りて玄関ドアから勢いよく飛び出した後村伸二は、好奇心が上回り人外たちを掻き分けて円の中央へ。 筋骨逞しい巨体の隙間からググッと顔を出して覗きこんだ地面には、これはこれで驚く光景が。そこには何もなく、平らな空間が広がっていたのだ。 焦げたように黒ずんだアスファルトがあるばかり。集団でこれを眺めていたのだろうか。 後村には拍子抜けだ。バラの花でも咲いていた方がまだマシだった。 けれどこんな焦げ跡いつの間にできたのか。帰宅した時にはなかったはずなのに。 気づいた時には円の中央に佇んでいた。「こいつか?」「こいつだ」という声が周囲から聞こえる。 赤や黄の瞳から放たれる険しい視線のなかに晒され、それでも後村は友情を築こうと親しく話しかけた。 「ねえねえ今までも毎日ここ通ってたの?何の祭り?どこ行くの!?」 「ぬぬ、まさか、わしらが見られておる」 「恐ろしや。言葉が通じる」 「こいつ人間か?」 「人間の臭いだ。こいつだ。仲間を燃やしたのはこいつだ」 「わしらの姿か見えるのはこいつだけ。こいつしかありえない。こいつだ」 「こいつじゃ」「こいつだ」「燃やしたのはこいつだ」「燃やした」「笑いながら燃やした」「こいつが」「仲間を殺した」 牙の生えた口て輪唱のように、ただし不気味な声と悪意に満ちた歌詞(せりふ)で少年を責め立てる。 「えっえっ!待ってよ、何のこと?オレ何も知ら…わぁっ!」 鳥の頭と人間の体を持った人外にドンッと正面から肩を押されてよろめいた。 アスファルトに倒れ、起き上がろうと顔を上げたところで何者かの鋭い爪に引っ掻かれた。 「うぎゃぁああっっ!痛いぃぃ!!」 頬に激痛、肉がえぐられたと実感した。 直前までの好奇心も称賛も消え失せ、もう恐怖しかない。痛みと恐怖に体は震え泣きわめくのみだ。 「しゅ、しゅみま……てした!すみ……んてし…ううー!たしゅけてくた……!いたい…たすけて!」 何に対しての謝罪なのか本人にも不明。 けれど会話が通じあうのなら痛みに口が上手く回らない状態であっても相手に制止を訴えるまでだ。 だが『復讐』に燃える妖怪たちに犯人を許す気配は少しもなく。 顔の半分を赤く染めて仰向けになった後村伸二の体の上には次々と妖怪たちが折り重なっていった。 「た、たすけて……おとうさ……おかあ……」 自宅前。中には家族がいる。助けてほしい。でも声はみんなに届かない。 呼吸困難となり意識の遠退いていくなかで、巨体の隙間から見えたものは、夜空を舞う蝙蝠の群れが遠ざかってゆく姿であった。
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