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ちょこちょこ動き回るアカリを無視して、男は彼女の衣服をバッグに詰め、変装用カツラを装着した。
そうしていまや彼女には巨人でしかない身で穏やかに見下ろす。手にはガラス瓶が握られていた。
健一は『お人形さん』を空いた手で軽々と持ち上げると瓶の中にためらいなく放った。
「きゃっ!」
着地に失敗したアカリは深さ2センチほどの琥珀色したゼリーのような物体の中へ。しりもちをついて上部の穴を見上げる。
蓋の部分は丸型。まるで天窓のよう。内部は狭くて助走もできず、立ち上がってジャンプしただけでは手は穴の縁に届きそうにない。脱出は無理だ。
まず第一に足もとの物質のせいで足場が悪い。全身も……。
「何よこれ!ベタベタじゃない!キモいっ!」
「それハチミツです」
一言をあっさり口にすると、健一は部屋の片づけを始めた。
すぐに作業は終わり、最後にうるさい瓶をバッグにしまうと消灯して部屋を後にした。終始事もなげな様子であった。
*
1階のエレベーター前で女装の涼真少年と合流。彼はアカリの身代わりだ。
トイレを借りるフリをしてホテルを訪問。トイレ内で変装開始。
彼女と同じ長さのカツラ、それから目深にハットを被って女になりすます。
本人は反発必至だが元々かわいい顔なので上出来すぎる仕上がりだ。
「君も指紋を消す薬は飲んで来ましたか?」
「はい。それよりカツラが肌にあわないのか頬が痒くて早く取りたいです」
「おや大変だ。会計してきますね」
そうしてなに食わぬ顔でチェックアウトをすませると、ふたりはホテルを退いたのだった。
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