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八日目の朝になって、ようやくサイクロンはヘル・マーケットに姿を現した。一週間以上の野宿で、目も当てられない程に汚れ、やつれた顔になって。それなのに、ものすごい勢いで仕事をしてた。
ヘル・マーケットのゴミを漁り、食べられそうな物、使えそうな物、燃料になりそうな物をかき集め、分類するそのスピードときたら。サイクロンは、決してサボリ屋じゃないんだ。
でも、あいつは何か悩んでる。俺にはすぐにピンときたよ。サイクロンは、苦しんでいる時ほど、常識破りなすさまじいスピードで仕事をするんだ。作業する事で、辛さを紛らわせるんだな。
だから、声を掛けてやんなきゃいけない。
ヤツは、俺を見て心底ホッとした表情になり、駆け寄ってきた。ずっとずっと俺を待っていたみたいに。
[俺]
大丈夫か、サイクロン?
[サイクロン]
ああ、マッシュ!聞いてくれよ。
あのウジ虫ちゃん・・・スゴイんだ。不思議だ。どう考えていいのかわかんない。変なんだよ、変だ。それって、何だって、ともかく妙で、だからさ・・・解るだろう?いや、解らねえか。ともかく、あのさ・・・。
[俺]
落ち着け。
まず深呼吸して、最初から話してみな。
ゆっくりでいい。大丈夫。俺はどこにも行かねえよ。最後まで、きちんと聞くからさ。
[サイクロ]ン
そうだよな、その通りだ。
でも、どこが最初なんだろう。
そうそう!まず、あの子(ウジ虫)はさ、泥やら苔やら、腹一杯、何か食ってた。
その内、ジッと動かなくなって、体が茶色くなってさ、さなぎになったんだ。あれには、興奮したなあ。さなぎになるなんて、正直、思わなかったんだ。
けっこう固くてさ。つついても平気だよ。
すこしモゾモゾ動いたりして、中でなにかやってんだ。ものすごい変化が起こってんだな、ワクワクしたよ。
それから三日後・・・たった三日だぞ!さなぎを少しずつ破って、外の世界に出てきたんだ。あの瞬間は、それこそもう、感激したなあ。胸がドキドキして跳ね上がった感じ?
赤色の大きな目をして、もうすっかり立派なハエで、でも・・・変なんだ。変なんだよ。
[俺]
なにが変なんだ?
[サイクロン]
マッシュ。最初に会った時、あの子はウジだったよな?
[俺]
ああ、ウジだった。本人に聞く訳にはいかないけどよ。間違いない。ウジだった。
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